*斎藤美奈子 『妊娠小説』(筑摩書房) それは唐突な宣言より始まる。「あなたの子供ができたの」この瞬間、小説内にガラガラと響 く落雷! そう、それがただの小説が「妊娠小説」に変わる宣言だ。抱腹絶倒の評論本! 高校の現代国語の教科書には、ほぼもれなく『舞姫』の全文が載っている。 言うまでもなく、明治の文豪、森鴎外の短編小説だ。 わたしはこの作品は、ここで出会うまで読んだことがなかったが、これの元になった事件のこ とはおぼろげに知っていた。だから、読んだ時ああこれか、と思ったものである。まあ、「題材」 であるから、これが何もかもそのまんまである訳はないのだが、エリート男が留学先で若い女と いい仲になった挙句捨てて帰ってきた、というラインは同じことだ。 で、当時わたしは、非常に不思議だった。これ……高校生に読ませる話か? いや、別にね、やらしい描写なんかはさしてないんですよ。そういうことではな