三角関数や微積分の有用性に疑問を投げかける政治家の話があった。それに対して私のTwitterのタイムラインでは蜂の巣を突いたようにこれらの有用性や美しさを表明するツイートで溢れた。しかし同時に疑問を湧く、若者の時間は貴重だ。大学はその希少性を理解しているだろうか。 この難題を考えるために、ブライアン・カブランさんの本「教育反対の経済学」を読んだ。ちなみにこの本の価格が4800円と高いし、それに負けず中身もとてもボリューミーだ。 この本の中身を紹介する前に幾つかの前提をみなさんと共有しておきたい。経済学が前提のこの本で「役に立つ」というのはほとんどの場合は個人もしくは国家の収入が増えるという意味である。またこの本の著者及び私山本一成は大学というシステムで便益を受けている側であることも追記したい。 統計的に大学卒業者は高校卒業者より給料が高い。アメリカだとその傾向は先進国の中でもさらに顕著で最
経済的独立すなわち自由は、世の中の仕組みを正しく理解し、最適な人生の戦略をデザインすることで、もっとも確実に達成できる。 世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。経済、社会から国際問題、自己啓発まで、さまざまな視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。 橘 玲の最新刊『幸福の「資本」論 あたなの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』好評発売中! 「幸福な人生」を送るために幸福を定義すると基盤となるのは3つの資本。その組み合わせで8つの人生パターンが考えられる。あなたが目指すべきはどの人生パターンか? ダイヤモンド社から発売中!(1,650円 税込) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【DIAMOND PREMIU
最近持ち上がった齊藤誠氏と飯田泰之氏の論争(というほどのものでも無いかも知れないが)を興味深く拝見したが、非自発的失業に関する齊藤氏の発言 実は、経済学研究の先端で厳格なトレーニングを受けた研究者は、「非自発的失業」や「自発的失業」という言葉をほとんど使わない。 を読んで、吉川洋氏が以下の著書で報告したルーカスの発言を思い出した。 ケインズ―時代と経済学 (ちくま新書) 作者: 吉川洋出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1995/06/01メディア: 新書購入: 12人 クリック: 297回この商品を含むブログ (23件) を見る 少し長くなるが、その発言を報告した部分の後の吉川氏の現代経済学への評価も含め、以下に引用しておく。 一九七七年私はイェール大学の大学院生だった。イェール大学はアメリカ・ケインジアンの総帥ともいえるトービンの影響下に、当時米国でケインズ経済学が生き残っているほと
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru ノア・スミス「現代金融理論 (MMT) を詳しく検討してみると」(2019年3月31日) econ101.jp/%e3%83%8e%e3%8… ノアが随分見当違いな疑問を抱いてそうだ、ということは分かる。 「税駆動論って奴隷労働じゃん」とかいうノアの難癖も、「国家、租税、通貨ってのは元来そういうもんです」で終わる話だし。 2019-11-15 23:24:00 望月慎(望月夜) @motidukinoyoru 「税駆動論+JGって、国家による強制労働じゃん」っていうノアのいちゃもんも、「じゃあ国家は失業や不当雇用を指をくわえて見てろってわけ?」って話になる。 そりゃ租税貨幣+雇用政策は民間からの労働リソースの”調達”なのは事実だけど、だから何って話。 twitter.com/motidukinoyoru… 2019-11-15 23:33:
[Noah Smsith, “Examining an MMT model in detail,” Noahpinion, March 31, 2019; re-posted on November 20, 2021] 〔2021年11月20日に再投稿された記事の加筆部分を訳しました.〕 なじみがない人のために言うと,MMT 〔を主張している人たち〕とは,「政府はもっと借り入れてもっと支出しろ」と言ってまわってる結束の固い集団だ.MMT は「現代貨幣理論」(modern monetary theory) の略で,この名称をぱっと見たら,「ああ,経済の仕組みについての理論があるんだな」とふつうは思う.これまでのところ,経済学者たちが MMT の文献をじっくり調べてみても,ネットミームにとどまらないまとまった理論と言えるものはないという結論になってる――そこにあるのは,特定の政策を支持するあれ
一昨日、昨日に続きクリス・ディローねた。 少し前にネオリベラリズムを「捉えどころがなく意味が移ろう概念であり、明確な擁護団体がいない(a slippery, shifting concept, with no explicit lobby of defenders)」と評したロドリックの論説を紹介したが、ディローも以下のように書いている。 Is neoliberalism even a thing? This is the question posed by Ed Conway, who claims it is “not an ideology but an insult.” I half agree. I agree that the economic system we have is “hardly the result of a guiding ideology” and mor
[Simon Wren-Lewis, “NAIRU bashing,“ Mainly Macro, February 17, 2017] NAIRUとは、インフレーションが不変の状態での失業率だ。経済学者がその概念を発明した以来、人々はずっとNAIRUを測定する困難さとその捉えどころのなさを揶揄している。そしてこれらの論説は、多くの場合において、その定義を放棄する時が来たという宣言で終わる。優秀なジャーナリストたちでさえそれをすることがある。しかしこれらNAIRUを捨てようとする議論のうち、単純で明白な疑問に答えてるものはほとんどない。-ほかにどうやってインフレーションと現実の経済を結びつける方法はあるのか? 一つの例外として、経済を効率よく制御するのに必要なのは、マネーサプライや為替レートといった名目値だと示唆しようとする議論がある。しかし手短に話すと、これらを実践する試みは、決してう
今年の初めに教育経済学者の中室牧子氏と共著で『「原因と結果」の経済学』という本をダイヤモンド社から出版させて頂き、多くの反響がありました。 大学の経済学部の学生からは、この本を読むことで経済学の入門書が言っていることの内容が理解できるようになったという嬉しいコメントを複数頂きました。また多くの経済学部で学部向けの授業やゼミで使って頂いているとのご連絡も頂いております(ありがとうございます!)。メディア関係者やビジネスマンからの反響も大きくて驚いております。 そもそもは日本のテレビや新聞で「スマホを見ていると学力が下がる」などの相関関係があたかも因果関係のように解釈、説明されていることに危惧して執筆した本です。一人でも多くの人に読んで頂きたい内容だと私たちは考えているため、このたび本書の前半部分を無料公開することにいたしました。これがきっかけになり、一人でも多くの日本人が「因果関係と相関関係
[Simon Wren-Lewis, “Medicine and the microfoundations hegemony in macroeconomics,” Mainly Macro, August 25, 2017] 主に経済学者向けの話. このところ,こんな気持ちが強まってきた――私がいう「ミクロ的基礎づけヘゲモニー」を論じたときに,経済学と医学の類推をもっとやっておいた方がよかったんじゃないか.ミクロ的基礎づけのヘゲモニーとは,「あらゆる方程式が首尾一貫してミクロ経済理論から導き出されていているモデルだけがマクロ経済のモデルとして『妥当』だ」という考え方のことだ.ここで私が思い描いているのはどんな類推かというと,一方では〔医学における〕生物学が〔経済学における〕ミクロ的基礎に対応し,他方ではたとえば喫煙と肺がんを結びつける統計分析がミクロ的基礎をもたないモデルに対応する,そう
『貧困の発明』というタイトルに「経済学者の哀れな生活」なる副題。帯には「トマ・ピケティ絶賛!」という惹句とともに「これまでに読んだいちばん可笑しな小説」という彼の推薦文が躍っている。 見るからに経済学を題材にした小説のようで、実際そうなのだが、中身は予想されるものとはたぶんだいぶ違っている。書き出しの一文はこうだ。 「ジェイソンの勃起した性器の写真があちこちの研究室で回覧されはじめたのは、八月、彼が最新の妻を連れてポリネシアへクルーズに出かけていたときだった」 ジェイソンが旅行から戻ると「縦五メートル横二メートルに引き伸ばされた自分の性器の写真が研究所の正面に掲げられていた」。ただしこの哀れなジェイソンは主人公の経済学者ではなく、サブキャラの海洋生物学者だ。 主人公の名前はロドニー。コロンビア大学教授にして世界銀行のチーフエコノミスト、国連の特別顧問でもあるエリート中のエリート経済学者だ。
現代経済学のヘーゲル的転回:社会科学の制度論的基礎 (叢書《制度を考える》) 作者: カーステン・ヘルマン-ピラート,イヴァン・ボルディレフ,岡本裕一朗,瀧澤弘和出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2017/06/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 「現代経済学のヘーゲル的転回」。このタイトルを見て、「なんじゃそりゃ」?と思う人が多いだろう。あるいは、今やすっかり廃れてしまったマルクス経済学を、そもそも「逆立して乗り越えた」はずのヘーゲル哲学までさかのぼって擁護しようとした時代遅れの書物だと思うかもしれない。だが、これはそういう本では全くない。 本書は(マルクス経済学ではない)現代経済学の方法論的な弱点と、それに対するオルタナティブを「制度」と「倫理」の観点から真摯に問い直した研究として、後世に名を残すだけのインパクトと可能性を兼ね備えた本だと思う。ちな
25日エントリで取り上げた(その後Econ101で邦訳も出た)サイモン・レンールイスのミクロ的基礎付けに関するエントリにクリス・ディローも反応し、次のように書いている。 My point here is the one Dani Rodrik has made. The right model is a matter of horses for courses. Atheoretical statistical relationships serve us well most of the time. But common sense tells us they will sometimes fail us. Our problem is to know when that “sometimes” is. This is not to say that the microfounded m
カタルーニャ州独立運動の住民投票のニュースを受けてと思われるが*1、ブランコ・ミラノビッチとタイラー・コーエンが分離独立に関する論考を書いている。 ミラノビッチは専ら、このテーマで良く引用される論文に対する批判を繰り広げている。 Twenty years ago Alberto Alesina and Enrico Spolaore published a much quoted article entitled “On the number and size of nations”. It was the time of the break-up of Communist-ruled “ethnically-based” federations and, on the other end of the continent, of European integration. The vie
と題したブログエントリでクルーグマンが、以下の4項目について保守派の考え方を腐し、彼らの黄金時代など無かった、と一蹴している(原題は「When Was The Golden Age Of Conservative Intellectuals?」)。 マクロ経済学 フリードマンと初期ルーカスが、積極的な政策(特に財政)を批判したことで有益な貢献をしたことは疑いない。1976年頃のシカゴマクロ経済学のパフォーマンスは実際大したものだった。 しかし、1980年代の出来事でルーカス型のモデルは失敗した。一方、アップデートされたケインジアンモデルは持ちこたえた。だが、保守派のマクロ経済学者は巣穴に深く潜り込み、ケインズ主義だけでなくフリードマン型のマネタリズムにも事実上背を向けた。 深刻な不景気と闘うための積極的な金融拡張策は、元々は保守派の考えだった。しかし今やそれは左派に歓迎される半面、右派が忌
ジェームズ・ハミルトン 「小人閑居して不善を為す ~バイオレンス映画の(短期的な)犯罪『抑止』効果~」(2007年5月1日) ●James Hamilton, “Idle hands are the devil’s workshop”(Econbrowser, May 1, 2007) カリフォルニア大学サンディエゴ校教授であり、私の同僚でもあるゴードン・ダール(Gordon Dahl)と、カリフォルニア大学バークレー校教授のステファノ・デラヴィーニャ(Stefano DellaVigna)の二人が、共著で興味深い論文を物している。題して、“Does Movie Violence Increase Violent Crime?(pdf)”(「バイオレンス映画は暴力犯罪を誘発するか?」)。 まずはじめに、ダールとデラヴィーニャの二人は、アメリカで封切られたバイオレンス映画の観客動員数の推移に
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