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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (7)

  • だめになった女の子 - 傘をひらいて、空を

    実名で登録するSNSは登録したきりでほとんど使っていなかった。けれども最近、年賀状を出しているかと尋ねられ、いいえと答えたらせめて実名SNSをやれと言われた。あれは年賀状である、と。なるほどと思った。省力化され年に何度出してもよく出さなくてもよい、年賀状。 以前よく使用していたパスワードでログインしそれを今使用しているものに変え(私は多くのサービスで五種類のパスワードを使用し定期的にそれらを更新する)、溜まっていたリクエストのうち知人であることが確認できたアカウントを片端から承認し、次いで「友だちでは?」というレコメンドのうち知人であることが確認できたものに片端からリクエストを出していく。ほどなくそれらは承認され、私はみんながまめにSNS上で活動していることにぼんやりと感心する。うんと古い友だちからメッセージが入ったりして少し楽しかった。四人目までは。 メッセージをくれた四人目は中学のとき

    だめになった女の子 - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2014/09/30
    「 ボーイフレンドらしい男性の手や足といった切片」
  • 大丈夫って言いたくなかった - 傘をひらいて、空を

    ゆうべも揺れたねと彼女は言った。ねー、怖かったあ、と私はこたえた。眠ってても揺れた気がして起きちゃうし、ほんと、つらい。 彼女は一瞬の、ずいぶんと重量のある沈黙ののち、表情のない声を出した。サヤカあなたなんでそんな簡単につらいって言えるの。私はいささか仰天してとりあえず謝った。彼女はひゅっと音をたてて息を吸い、無表情のままそれを少しずつ吐き、ううん、謝ることないの、と言った。 大丈夫ってみんな訊くでしょう。彼女は言う。地震直後は、それがうれしかった。会社から歩いて家に着いて、家族もけがしてなくて、とてもほっとして、よろこんで返事した。でも地震が続いて、電気が止まって、仕事にも少しずつ支障が出てきて、買いにくいものがあって、みんな、また訊いてくれるの。心配して声かけて、メールをくれる。大丈夫って私、言う、メールを書く、大丈夫平気大丈夫です大丈夫です大丈夫です、 私はおろおろしてカフェの椅子を

    大丈夫って言いたくなかった - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2011/03/22
    「大人は自分のつらい気持ちを一方的に他人に投げることができない。私たちはおたがいのマイナスの感情を許容できる関係においてのみそれを引き渡すことができる。」
  • 仮定による傷、処方としての贈与 - 傘をひらいて、空を

    災害のためでなく、もとより私たちのあいだには電話を使う習慣がなかった。ふたりともけちなのだ。だからおしゃべりにはskypeを、それが普及する前はチャットを使っていた。 私は内心、skypeがある時代でよかったと思っていた。たいした被害も受けていなかったのに、人の声を聞いたら肩の力が抜けた。人の声がことのほかいいものに感じられた。 彼女は茨城のご両親の無事を報告し、それから、募金どこにするのと訊く。赤十字かなと私はこたえる。うちの会社もやるんだと彼女は言う。その発表したらなんかね、きたよ、偽善者ー!みたいな匿名メール。うちみたいなちっちゃい会社にそんなメール送ったっていいことなんにもないのにね。うちの関係者なんだろうけど。 糾弾はある意味でもっとも簡単な参加の方法だからねと私はこたえる。私は思うんだけど、こういう大きな災害とかって、自分の中に位置づけるのがけっこうたいへんなんだよ、直接被災し

    仮定による傷、処方としての贈与 - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2011/03/16
  • 神さまを借りる - 傘をひらいて、空を

    じゃんけんで決める、と教官が言った。はあいと私たちはこたえた。私はそのとき大学生で、ゼミのキックオフミーティングに参加していて、発表の順番や雑用の担当を決めていた。 そのあとの飲み会で、でもどうしてですか、と誰かがたずねた。なんでじゃんけんなんですか、先生が適当に割りふるとか、話しあって決めさせるとか、そういうんじゃなくって。 彼は眉をたがいちがいに動かしてから、偶然がいちばん正しいから、とこたえた。 あのさ、みんな人前で発表するのとかはじめてじゃんか。なるべく遅くにやりたいよね。文献読むのだって先延ばしにしたいだろうし。俺が学部生のときだってそうだったもん。ほかに楽しいこといっぱいあるし、とにかく布団から出たくねえよ、みたいな日もあるし、バイトで稼ぐのがいちばん大事な時期もあるし、だいたい、若いとすぐ変なこと考えてなんか穴っぽいところにはまるんだからさ、あれってなんだろうな、ホルモンバラ

    神さまを借りる - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2010/10/02
    「偶然の暴力性」
  • 間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を

    私が電話に出るなり、あのさ、彼氏とどんな会話する、と彼は訊いた。彼氏によると私はこたえた。相手によって話題は変わる、友だちと何しゃべってんのって訊くのと同じで、具体的な内容を答えられる質問じゃないね。 めんどくせえ女だなあ、今までの誰かひとり適当に見繕って答えてくれってことだよ、空気読め、と彼は言った。なんで私があなたの吐いた空気を読む義務があるのと私は訊いた。彼は楽しそうに笑った。彼は会話の中で軽くやりこめられるのが好きだ。 私は携帯電話を耳に当てたままベッドに寝そべって話す。まずは好きって言うよね。そんなん一秒で終わるだろと彼は言う。二文字じゃん。わかってないなと私は言う。好きにもいろいろバリエーションがあるの。褒めるとか。人によってはなに着ててもまずは褒めてくれる。なにも着てなくても褒める。どうかすると電話に出ただけで「相変わらずかわいいねえ、声がとても」とか言う。 狂ってると彼は言

    間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2010/09/30
    「精神の内臓」
  • 新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を

    友だちの家のPCの動作がおかしいというので見にいった。だいぶ古くて起動に十分もかかる状態だったので、さしあたり彼女が必要としているDVDの再生ができるようにクリーンインストールすることにした。 彼女の仕事用の携帯電話が鳴り、彼女は私にことわって出た。はい、いつもお世話になっております。いえいえ、はい、なるほど、担当がそのようなことを申しましたか。 彼女は五分ほど電話で話しつづけた。ほとんどは相槌だった。いろいろな種類の、さまざまな重さの、一定以上の温度を保った相槌だ。彼女はそのあと、仕事にしてはいささか親しげに短く笑って、いいえ、いいんですよ、と言ってから電話を切った。 私はBIOSを確認し、それを覗いた彼女はなんだか怖そうな画面、とつぶやく。怖くないよ、これはWindowsの下に入っているソフトなんだよと私は説明する。 ディスクがかりかりと音をたてて書きこみをはじめる。私は彼女の出してく

    新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を
    hatayasan
    hatayasan 2010/06/27
    「新しいものをもたらす側はある種の権力者だから。新しいものを学習できないかもしれないという不安を与えて、「あなたのはもう古いので捨ててください」と否定するから。」
  • 「私はいつか嫉妬する」 - 傘をひらいて、空を

    彼女は四十一歳になった。彼女はカメラマンで、ふたりの後輩を指導しながら、現場でカメラを回している。回すというのは動画を撮るときの表現で、静止画のカメラマンのことはよくわからない、と彼女はいう。 職業的にカメラを回すというのはどういう種類の経験なのか、私は尋ねる。現場に行く前はなにをするのか。どんな人たちと一緒に、どんな準備をするのか。判断しなければならないことはなにか。それによってなにが影響されるのか。 彼女はそのいちいちに答えながら、それらのプロセスで自分が感じることをいきいきと語る。短時間での判断を要求されることが多く、それに自信を持てるようになったら一人前だということ。でも勉強すれば正解が出るわけではないので、「ほんとうはわからないのに断定する詐欺師みたいな度胸」が必要だということ。機材を扱うためには、腕や脚だけでなく、背筋を上手に使わなければならないこと。 ファインダにうつる映像は

    「私はいつか嫉妬する」 - 傘をひらいて、空を
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