「君は僕のことを恐がりすぎだ」 柳下さんによくそう言われるのだけれど、編集者というのは書き手にとり程度の差こそあれ恐いものだと思う。編集者は書き手にとって「発注主」とか「第一の読者」を超えて、「メンター」や「先生」という役割を担っている。書き手ががりがりと下を向き、まるで土を掘っていくかのように書いているのを、編集者はより引いた目線で俯瞰して見る。そして「君はどこへ向かいたいのだろう」と言う。わたしは泥だらけの顔をあげて「えっ?」と聞く。そしてまわりを見渡して、ここはどこだろう、などと思うのだ。本当にここに来たかったんだろうか? 掘ってきた道筋は、誰かがすでに通ったあとで柔らかかったから辿ってきたんじゃないだろうか? 本当はもっともっと深く掘れたんじゃないだろうか? わたしはスコップを持ったままどきどきする。上を見上げると、編集者が見ている。 いちばん近い他者の目は恐い。それがもっとも騙せ