とことん史料を読み込むことによって、どんな新しいことがわかるのか、またその新しく見つかった事実は、従来の研究を大きく左右することがある。そんな経験を1994年、福島県立図書館佐藤文庫での「日清戦史草案」を調べたときの体験から述べてみたい。 私がここに「日清戦史草案」があることを知ったのは、専修大学法学部教授の大谷正さんに教えられてのことだった。この教えに導かれて94年の春、はじめて、佐藤文庫の調査にでかけた。大谷さんは日清戦争当時の、民間人で武器、食糧などの輸送にあたった人々=「軍夫」という従来の研究でかえりみられなかったテーマの重要性に着目し、地方の図書館巡りをしていて「日清戦史」の草案を見つけたのだった。 すでに軍事史の専門家や防衛庁の戦史研究者などの間では、佐藤文庫の名はつとに知られており、調査した研究者も少なくなかった。しかし、この朝鮮王宮占領の記録は専門家の間でも見過ごされてきた