多くの風評被害をもたらした福島第一原発事故。その原因のひとつとして、政府が発表する放射線量の数値に振り回される日人が多かったことを挙げるのが、俳人・金子兜太氏(92)だ。天災に立ち向かうために、日本人はどうあるべきか――金子氏が語る。 * * * 昨年の日本は東日本大震災とそれに伴う原発事故に尽きます。3月11日のその瞬間、私は朝日俳壇の選句のために朝日新聞社にいました。車で埼玉・熊谷の自宅に帰る途中、気になったのは自転車を買う人がたくさんいたことです。 他の人のことを考えれば「借りる」という選択肢があってもいいはず。金さえ払えば何をしてもいいという自己中心的な風潮が日本全体を覆っていることを実感した思いでした。 だからといって、「昔の日本はよかった」などというつもりはありません。敗戦直後の日本人は徹底して自分勝手な面が強かったし、他人に対して極めて荒っぽかった。極端にモノが少ないために余