「不快な夕闇」 [著]マリーケ・ルカス・ライネフェルト 小説をたくさん読むうちに、「何を読んでも何かを思い出す」ふうの既視感を抱く機会も増えてくる。だが国際ブッカー賞を最年少で受賞したこのデビュー長篇(ちょうへん)には、新しい表現に出会えた驚きにしばし陶然とさせられた。とはいえ、オランダの小さな村で酪農を営む一家がじわじわと崩壊していく過程を描くこの物語は、タイトルのとおり昏(くら)く不穏だ。 敬虔(けいけん)な改革派プロテスタントの両親のもと、4人の兄妹で暮らす10歳の少女ヤス。死ねばいいのにと軽い気持ちで神に祈った長兄が本当に湖で溺死(できし)してしまう。だが一家はその悼み方がわからない。赤いジャケットを脱がずその下のへそに画鋲(がびょう)を刺しっぱなしにするヤス。食事を摂(と)らず痩せ細っていく母親。ハムスターを弄(もてあそ)んで殺す次兄のオブ。喪失という穴が生み出すその暗闇に一家は