近年、趣味としてコレクションしている人も少なくない石。石器時代が証明しているように人類と石の関わりは深く、長野県松本市では今でも石材店が多く立ち並ぶ。その経緯は松本城が築城された約500年前に遡るそうだ。松本市で明治12年に創業した「伊藤石材店」で5代目を務める伊藤博敏は、硬質で重い特性のある石を、折り畳まれたTシャツ、ナイフで押しつぶされたバター、溶けた棒アイス、ファスナーが付いた袋、スプーンですくわれたスープなどに見立てた作品を発表している。石が鉱物であることを忘れさせるような作品は、日本文教出版が刊行する美術の教科書にも掲載されるほか、国内外で個展を開催するなど注目を集めている。彼があえて、硬い素材で柔らかいものを表現するワケとは。そこには、伊藤なりのマテリアルの捉え方、職人や作品の定義があった。 伊藤博敏 1958年長野県松本市生まれ。東京藝術大学工芸科金属工芸専攻を卒業。アトリエ