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ブックマーク / chez-nous.typepad.jp (11)

  • 日本学術会議のこと(3)

    このタイトルで書くのはこれで最後にしたいと思います。前記事の最後に書いたように、日学術会議の会員任命拒否に関しては、その理由の開示についてはしつこく求めていくべきだけれども、それは現在この国が直面している最重要問題ではないからです。けれども過去2つの記事が数日間で10万回近く読まれ、様々な反応が来ているので、それについてまとめてお答えしておきたいと思います。 全体としては賛同を示していただいた方が圧倒的に多いのですが、もちろんネガティブな意見もありました。それも大切だと思っています。ネガティブな意見の大半は、今まさに権力によって学問の自由が侵害されようとしているのに、あなたは何を呑気なこと言ってるんだ! というようなお叱りです。これをきっかけに今こそ政権に打撃を与えるチャンスなのに、学術会議の人文系会員であるいわば当事者が、なんで水をさすようなことを言うのか? と。 それは言論の自由があ

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    kaos2009 2020/10/13
  • 美学会からの声明について

    美学会のホームページに、以下のような声明を発表しました。 日学術会議会員任命拒否に関して 日学術会議第25期の1部(人文社会科学分野)の新規会員として推薦された35名のうち6名が任命されなかった問題に関して、それは誰の責任において判断したのか、またその判断に至った理由について開示することを求めます。法や手続きに関する細かな議論以前に、件はこの種の人事過程の「常識」からして異常な事態であり、また大きな社会的影響を持つことから、任命主体には理由を公開する責任があります。その上でもしもその理由が不正なものであれば、関係者に謝罪の上再任命すべきであると考えます。 美学会会長 吉岡洋 10月1日から3日まで開催された先週の日学術会議総会の後半が、ちょうど美学会全国大会と重なっていて、ぼくは総会は初日の10月1日しか出席できず、その日に京都に帰って、翌日の美学会合同委員会、3日、4日の研究発表

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    kaos2009 2020/10/13
  • 美学は何の役に立つのか?

    以下の原稿は、もともと2019年10月12-13日、東京の成城大学における第70回美学会全国大会のために用意した講演原稿ですが、台風19号のために中止となったため、2020年1月12日に同じく成城大学において発表させていただいたものです。その後、雑誌『美学』に掲載するという話もあったのですが、字数制限などがあり残念ながら実現しませんでした。美学会の将来ということを意識した内容なので、このまま一般の雑誌原稿としても発表しにくいため、ここで共有したいと考えました。 〈1〉「歴史の終焉」が意味するもの 2010年、中国の北京大学において、第18回国際美学会議が開催されました。その時の大会テーマは「美学の多様性(Diversities of Aesthetics)」というものでした。企画者のひとりであった佐々木健一氏はそこで「美学の哲学的役割(Philosophical Role of Aesth

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    kaos2009 2020/10/13
  • 日本学術会議のこと(2)

    昨日の記事について、たくさん質問をいただきました。全部に答えるのは無理だけど、いくつか。 ◯ まず、お前は誰だ?(笑) 的な質問。 ちょっと失礼だけど、まあいい。 このブログは「hirunenotanuki」という名前で動かしてきましたが、別にアイデンティティを隠しているわけではありません。過去の記事を見れば分かります。 日学術会議の会員ならエラい先生なのだろうと思う人もいるかもしれませんが、実は学問的にたいした業績も貢献もありません。別に謙遜して言ってるのではない。ただ京都大学で美学の教授を10年くらいつとめ、この4年間は美学会の会長をしてきて、歳も相応にとってきたので推薦を受けたのではないか。 ◯ 次に、あなたも左翼なのか? というような質問。 違います。たしかにぼくは若い頃テオドール・アドルノやユルゲン・ハーバーマスを読んでいて、その意味ではフランクフルト学派つまり新左翼の哲学を勉

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    kaos2009 2020/10/06
  • 日本学術会議のこと

    これはポンポコ先生じゃなく「中の人」? が書いています。どこが違うのだと言われると困るのだけど。 すでにいくつかのメディアで報道されているように、日学術会議が推薦した第25期の新たな会員のうち、人文・社会系35名のうち6名が、内閣総理大臣によって任命されなかったという事態が起こりました。 ぼくは新会員のひとりであり、昨日の総会に出席しました。前会長の山極寿一さんが退任挨拶の冒頭で、経緯について簡単に説明しました。新会員の名簿は何ヶ月も前から内閣府に提出されていたのに、一部を任命しない事実が知らされたのはわずか2日前だったとのことです。つまりこの決定について現会員や執行部に抗議する時間的余裕を与えない、ギリギリのタイミングで知らされたということです。 こうしたことは、日学術会議の発足以来初めてのことです。過去においても政府と学術会議が対立したことはありましたが、任命者である総理大臣が会員

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    kaos2009 2020/10/06
    “怖がらせることがまさに政権の意図なのだから、あんまり怖い怖いと大騒ぎしたら思うツボなので、理由の開示をなるべくたくさんの人数で、冷静に追求し続けるべきです」”
  • 「あいトレ」問題をめぐる所感

    以下のテキストは、また3年間会長を続けることになった美学会のことを意識して書いたものではありますが、あくまでぼくの個人的所感であり、学会全体の立場を表明するものではありません(なんてことをいちいち断らなきゃいけないのも今の時代の窮屈さだし、断ったからといって別に内容の印象が変わるわけでもないのだけどね)。 --------------------------------------- あいちトリエンナーレの「表現の不自由」展に起因する補助金停止問題について、美学会としても何か声明を出すべきだという意見が、会員の中から上がった。すでに芸術関係のいくつかの学会や団体から、文化庁・文部科学省に向けた声明や抗議が出ているので、芸術分野全般の研究をカバーする美学会としても何らかの意見表明を行うべきだという声が出るのは、当然であろう。 たしかに、文化事業のために交付を決定した補助金を、外部審査員に相談

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    kaos2009 2019/10/24
  • 「言葉の劣化」に抵抗すること

    先日久しぶりに会った知人が何の前置きもなく「君もたいへんだなぁ」としみじみ言うので、いったい何のことかと訊ねたら、国は大学には人文社会科学、とりわけ文学部なんてもう必要ない、という方針なんだろう? 自分は大学の事情はよく知らないが、ニュースで大々的に報道されているからみんな知ってるよ、講義で学生たちに「ぼくたちどうなるんですか?」なんて聞かれたらどう答えるの? と。つまりぼくが文学部の教授であることを知っているので、心配してくれたわけだ。 実はこのような問いは、講義の後すでにある学生から質問されたことがある。それでぼくはどう答えたかというと、「文学部がなくなったって、ぜんぜん大丈夫」というものだった。ちょっとヤケクソに聞こえるかもしれないけど、その時はなぜかそうとしか答えられなかった。質的な問題は「文学部」とか「何々学」などという制度の存続ではないし、自分が今たまたまそうした制度の中で仕

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    kaos2009 2015/09/03
  • 「権力が芸術に介入する」

    愛知県美術館の「これからの写真」展に展示されている鷹野隆大さんの写真作品が匿名の通報によって訪れた警察によって「わいせつ」と判断されたことに対して、反対する署名を求められた。 署名といってもネット上の署名である。正直、ネットでの署名なんてどっちでもいいと思ってるけど、絶対しないと決めてるわけでもない。その時の気分でしたければするし、親しい人から回ってくるとついしてしまう。優柔不断だが、まあその程度のものだと思う。署名したことなんてすぐ忘れてしまうし、そのことで自分が何か社会的な意思表明を行ったなどとはあまり思えない。 この程度のものを取り締まるなんて、いくら何でもやり過ぎだと思ったから署名はした。でも、ちょっと気になることもあった。それは「権力が芸術に介入する」みたいな言い方である。こうした問題において、「芸術」を何か特権的なものであるかのように扱うと、話がややこしくなると思うからである。

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    kaos2009 2014/08/23
    “これくらいのものを有害だと匿名で警察に通報するような人の意見は、現代の一般的常識をまったく代表していないから無視してよいということである。”
  • 世界の圧倒的な虚しさ

    高校1年生の女子生徒が、何の恨みも憎しみもなく、ただ人を殺してみたかったという動機から、クラスメートの女子を殺害し、その遺体を解体しようとしたらしい——この衝撃的な事件について、いったいどのように考えればいいのか、どんなことでもいいから何か書いてくださいと若い人たちから頼まれたのだが、いったい自分に何が言えるのか…とにかく書いてみることにする。 とりあえず、自分自身が高校1年生であった1974年のことを思い出してみる。その4年前に市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げた三島由紀夫の作品は、文学好きな高校生の間でよく読まれていた。ぼくも高校1年生の夏休み、まだエアコンのなかった家の暑さを逃れて藤森神社の木陰に逃げ込み、聴覚を麻痺させるような蝉時雨の中で、白地に赤い文字で作者と作品名がデザインされた新潮文庫の『午後の曳航』を読んだ。 この記憶について言うのは、佐世保の事件のことを聞いて、まずこの

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    kaos2009 2014/07/31
    午後の曳航 (新潮文庫)(三島 由紀夫)
  • 「芸術か猥褻か」というダミー問題

    もちろん「自称」ではなく、多くの人からマンガ家でありアーティストでもあると認知されてきた「ろくでなし子」さんが、自分の性器の3次元データをネットで配布したという容疑で逮捕された。彼女はもともと、近代社会において女性器が「見せてはならないもの」「その名で呼んではならないもの」とされてきたことに対して強い問題意識を持ち、女性器は手足と同じ現実的な身体の一部であり、ちゃんと視覚的に表象し、またその唯一の呼び名である「まんこ」を、男の性的好奇心に汚された語感から解放して、もっと明るく普通に使おう!という方向で、表現活動をしてきた人である。 女性身体の表象や言語表現をめぐるこうした抵抗運動自体は、けっして今にはじまったことではない。ぼくが大学に入った頃、中山千夏さんが『からだノート』というの中で、女性は恥ずかしがらずに自分の性器をちゃんと見よう、そして抵抗はあるかもしれないけれども、女性器を呼ぶ普

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    kaos2009 2014/07/15
  • "クールジャパン"はなぜ恥ずかしいのか

    第2回世界メディア芸術コンベンション「想像力の共有地(コモンズ)」が終わった。今回は京都精華大学のジャクリーヌ・ベルント教授に協力を仰ぎ、欧米、韓国、インドネシアからもマンガ・アニメーション関係の研究者を招き、限られた時間にはちょっともったいないくらいの多様な議論が提供された。 前の記事「想像力を共有するとは?」の冒頭でも述べたが、昨年の第1回世界メディア芸術コンベンションは「メディア芸術の地域性と普遍性」というテーマで、その副題には「"クールジャパン"を越えて」とあった。さらに今回の開催趣旨の冒頭にも次のように書いた。「マンガとアニメーションはいわゆる「クールジャパン」の中心的分野とされています。けれども日文化をユニークで卓越したものとして産業的な関心からプロモートする言葉は、ちっとも「クール」ではない。」と。この「世界メディア芸術コンベンション」という国際会議は、国(文化庁)の催しな

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