アシェラとは何だったのか(1)――一神教成立によって放逐されたもの 20世紀後半の旧約聖書学は、古代のイスラエルの民の一神教的信仰形態の起源を尋ねるという形をとりながら、その元来の信仰形態がおよそ一神教的ではなかったことを証拠だてるという全く異質な方向にラディカル化していったように見える。そうした方向転換を促した最大の要因とも言えるのがアシェラにかかわると思われる考古学的発見であり、アシェラをめぐる論争であった、と言って良いと思われる。アシェラをめぐる論争は、その細部には未解決の部分を多く(あまりに多く)残しながらも、基本的な部分に関しては緩やかな合意が形成されたと言えるだろう。つまり、アシェラという(像が象徴する)女神は、『旧約聖書』の記述がそう思い込ませたように、元来一神教的であったイスラエルの宗教に外部から入り込んできた異教徒の女神なのではなく、恐らくはヤハウェの配偶神であった。ヤハ