笠原十九司、『日本軍の治安戦 日中戦争の実相』、岩波書店(シリーズ 戦争の経験を問う) ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば声も立てなくくづをれて伏す 本書は歌人・宮柊二の上に引用した歌の紹介からはじまっている。自らも歌集を出しておられる笠原氏らしい導入だが、宮柊二は独立混成第三旅団に所属して、山西省で「治安戦」を戦っていたのである。その治安戦のなかで展開されたのが「燼滅掃討作戦」や「無人区(無住地帯)」、いわゆる三光作戦である。 華北での日本軍の戦闘ないし三光作戦については、さほど多くはないもののすでにいくつかの文献がある。本書の特徴は日本軍上層部の視点、前線の将兵の視点、そして中国側の視点、と多角的に「治安戦」の実相を記述している点であろう。第5章では3つの地域について日本側の記憶と中国側の記憶をつきあわせる作業がなされている。もう一つ、日中戦争全体(あるいはアジア・太平洋戦争全体)の流