今回は「探求メモ」の特別版といった位置づけで、長めの記事を投稿します。2017年に出た神経科学についてのちょっと面白い論文を読み、友人と議論しながらあれこれ考えて書いたものです。昆虫の神経科学と合成生物学を研究している、鈴木力憲(@Mujinaclass)氏との共著です。この文章は、鈴木氏の研究ブログにも同時掲載されています。(同ブログには、研究者として本稿を書いた意図をまとめた「序文」がありますので、このテーマのご専門の方はまずそちらをご覧ください。) どうすれば脳を「理解」できるのか:「コンピュータチップの神経科学」から考える 文章:丸山隆一(@rmaruy)・鈴木力憲(@Mujinaclass) 近年、神経科学の進歩がすさまじい。さまざまな技術革新によって、脳に関して得られるデータは飛躍的に増えた。「記憶を書き換える」「全脳をシミュレーションする」といった華々しい研究の数々は、神経科
ノーベル経済学賞のインパクト 2017年度のノーベル賞が先日発表された。神経内科医師としては医学生理学賞(体内時計の研究)も気になるところだ。だが今年については、診療の現場にも直結するテーマは「ノーベル経済学賞」だった。 受賞したのは米シカゴ大学のリチャード・セイラー博士。「行動経済学」の業績が評価されたのだ。行動経済学は、心理学と経済学をつなぐ融合的学問で、理論や数式だけではなく実験と観察に基づいて、現実社会での人間のふるまいを理解する新しい研究分野である。 臨床医であるとともに「神経経済学(ニューロエコノミクス)」を研究する神経科学者の端くれである私としては、この分野が注目されるのはうれしいニュースだ。 セイラー博士の業績の最重要ポイント 行動経済学と診察室がどうつながるかを説明しよう。たとえば、あなたが診察室で医師から「肺がんなので、できるだけ早い手術が必要です」と告げられたとする。
本研究成果のポイント自らの知覚経験を振り返り、自分の知覚の確からしさ(確信度)を評価するメタ認知は、状況に合った振る舞いをするために不可欠です。本研究は、最先端のニューロフィードバック技術(Decoded Neurofeedback, DecNef)を応用し、自らの知覚を振り返る「認知の認知=メタ認知」を変容することに成功しました。具体的には、前頭前野と頭頂葉を含む高次脳ネットワークがメタ認知にかかわると予測し、そのネットワークの空間的脳活動パターンを、被験者が自ら操作するDecNef訓練を実施しました。その結果、被験者が自らの視知覚に対して感じる確信度を、狙った方向へ双方向に変容する(上げ・下げする)ことに成功しました。このことから、メタ認知を支える神経基盤の所在が、前頭前野-頭頂葉ネットワークにあることが明らかになりました。メタ認知の異常は、依存症、統合失調症、強迫性障害など複数の精神
意識を経験科学的に測定するには一体どのようにすればよいのか、という本。 「統合情報量」という新たな物理量を提案し、これを測定することによって、意識の有無を調べることができるとする。 心・意識の科学に関する本を読むの、考えてみると結構久しぶりだったのだけど、なかなか面白かった。着実に進展しているのだな、すごいな、と。 個人的な感想として、この本を読む限りでは、統合情報理論は必ずしも意識のメカニズムの説明にはなっていないと思うのだけど、経験的に検証可能なリサーチ・プログラムになっていて、意識を研究するに当たってかなり重要な一歩となっているのではないか、という感じ。 この本は、一般向けに書かれた著作となっており、専門的な記述は少なく、むしろエピソードや具体例を交えて書かれており、読む分にはかなりすらすらと読めるものとなっている。 ちなみに、まえがきで述べられているが、本書の構成は対称的になってお
怖さを感じた経験から恐怖の記憶を打ち消す脳科学の新たな手法を京都の民間の研究機関などのグループが開発しました。グループでは、将来的には、過去の経験から反射的に恐怖を感じる症状を和らげる治療法の開発にもつなげられるよう研究を深めたいとしています。 「国際電気通信基礎技術研究所」などのグループです。 グループでは、20代の男女9人に、赤い図形を見たときに、安全上問題のない範囲で電気ショックを受ける「恐怖の経験」をしてもらい、MRIを使って脳のどの部分が活動したかを調べました。 そのうえで、9人にはMRIの装置で横になったまま、さまざまな考え事をしてもらい、無意識のうちに赤い図形の記憶が脳の中に現れたときに、うれしいプレゼントとして現金を与える実験を3日間繰り返しました。その結果、9人とも、赤い図形を見ても皮膚から出る汗の量がおよそ半分に減少し、恐れる反応を和らげることに成功したということです。
意識をめぐる本は最近も『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』や『意識をめぐる冒険』が本職の神経科学者によるノンフィクションとして発表されるなど、翻訳(と出版)が比較的に途絶えない分野である。本書の著者もまた本職の認知神経科学者ではあるが、特異性は徹底した実証に基づく意識の定義、およびその応用可能性についての地道な記述であろう(他の著者が実証に基づいていないわけではなく、アプローチの違いであることは後述)。 本書では哲学的な謎を、実験によって検証可能な現象へと変えた戦略を詳しく解説する。この変化は「意識のより明確な定義」「意識的知覚を実験によって操作できるという発見」「主観的な現象に対する尊重」という三つの要素によって可能になった。 本書の構成は意識の定義、無意識及び意識の働きの実証的考察、意識に関する理論的仮説の提起、臨床現場への応用事例と段階を踏んで、かつ自身らの物を含む
筆者も参加した、ジブリからゲーム実況までを扱った映像論集『ビジュアル・コミュニケーション 動画時代の文化批評』(南雲堂)刊行にあたり共著者全員により、「映像/視覚文化の現在」をテーマに様々な角度から共同討議を行いました。 ■認知科学や神経科学的知見の映像研究への応用について冨塚 監督個人の作家性から集団制作へ、という流れで言うと最近たまたま観た『ベイマックス』は象徴的な一本だったように思います。 共同監督、共同脚本で制作された本作は、戦隊ヒーローものやバディものといったジャンルに関し、「各ジャンルにはこんな約束事があるから、こう展開すればウケる」というノウハウを網羅した優秀な人材が大勢集まって、意見を突き合わせながら作っているような印象があり、とりたてて穴のない秀作であるのは間違いないものの――どうしてもこの作品が私は好きになれませんでした。 というのも今回、自分の論考や巻末のリストで紹介
序 思考の材料 第1章 意識の実験 第2章 無意識の深さを測る 第3章 意識は何のためにあるのか? 第4章 意識的思考のしるし 第5章 意識を理論化する 第6章 究極のテスト 第7章 意識の未来 私たちの思考、感情、夢はどこからやって来るのか?――この問いは子どもでも思いつくほど素朴なものだが、意識がどのように生じるかについては、有史以来何千年も先哲たちを悩ませてきた。本書は、「意識の研究はもはや思索の域を脱し、その焦点は実験方法の問題へと移行してきた」と言い放ち、独自の「グローバル・ニューロナル・ワークスペース」理論を打ち立て、意識の解明を実証すべく邁進する認知神経科学の俊英ドゥアンヌが世に送り出した、野心的な一冊である。人工知能やヒューマノイドロボットなどが注目されている現在、それらの研究の礎となる脳の機能および意識の研究も発展が著しく、同様に熱い視線が集まっている。そんな世に堂々と斬
電子情報通信学会集積回路研究専門委員会(ICD)は「先端医療を切り開くLSIとシステム」をテーマに、2015年5月11日から13日まで「LSIとシステムのワークショップ2015」(北九州国際会議場)を開催した。11日の基調講演には国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所の川人光男氏が登壇、「脳とBMI(Brain Machine Interface)」と題して、脳科学の最新動向と同分野におけるLSIおよびシステム技術の利用状況を解説した。 講演の冒頭、ATRが開発した人の動きを模倣するヒューマノイドロボットの映像が流された。川人氏はもともと生理学者や医師と共に脳の仕組みを明らかにする研究に取り組んでいた。しかし、15年ほど前からBMIなどの応用研究に興味が移り、例えば、人間が持っていると考えられる強化学習、熟練学習の仕組みをロボットに実装して、どこまで人間に近いパフォーマン
どちらかというと偶然に読んだ本だったか、これがとてつもなく面白かった。どう面白いのかというと、多面的だが、まさにこういう本が読みたかったという思いにズバリと突き刺さる本だった。 内容は邦題が示しているように、ごく平凡な若者が、一年間の記憶術の訓練で全米記憶力チャンピオンになるまでの話を軸に、記憶術がどういうものか、また人間の記憶能力とは何か、ということだ。実に上手に描き出されている。私にとって一番面白かった点は、記憶術の歴史に関連する部分ではあったが、その他の面も面白かった。 正確にいうと、著者は「ごく平凡な若者」とは言えない。邦題どおり「 ごく平凡な記憶力」だったとは言えるだろう。だが、本書にも触れられているが、全米記憶力チャンピオンは国際的にはど田舎と言っていい。欧州のチャンピオン達にはかなわない。もっともそれでも全米一は驚くべき記憶力である。 というわけで、本書は、記憶術のハウツー本
脳科学の分野においては、脳波を解析して実際に何を考えているのかを解析する研究が進んでおり、頭で考えるだけで手足を使わずに飛行機を操縦する実験が成功を収めています。さらに別の研究チームによる実験では、測定した脳波をインターネットで送信し、別の人物の脳へと電気信号を送り込むことで情報を伝達するという試みが成功を収めたことが明らかにされています。 PLOS ONE: Conscious Brain-to-Brain Communication in Humans Using Non-Invasive Technologies http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0105225#pone-0105225-g001 Is Emailing Your Brainwaves the Future of Communic
私たちの大脳の中では、どんな処理が、どのように行われているのでしょうか? かつては、脳の神経細胞に実際に電極を刺さなければ、脳の活動状況を調べることができませんでした。しかし、最近では、体内の水分子を強力な磁場で測定して画像化するfMRI(機能的磁気共鳴画像法)などで、被験者に大きな負担をかけることなく脳内の活動状況を調べられるようになってきています。 得られた最新の研究状況のうち、特に「視覚」について、電通大で最先端の研究に取り組まれている宮脇先生に聞いてみました。 国立大学法人電気通信大学 先端領域教育研究センター 准教授 2001年3月、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程を修了。2001年4月より理化学研究所脳科学総合研究センターの研究員、NICT/ATR脳情報研究所研究員を経て、2012年3月より現職。人間が見ている画像を脳内の信号パターンから再現するなど、主に視覚
米ニューヨーク(New York)のアメリカ自然史博物館(American Museum of Natural History)で開催された特別展示「Brain: The Inside Story(脳:内側の物語)」で展示された脳の模型(2010年11月16日撮影)。(c)AFP/Emmanuel Dunand 【5月12日 AFP】体に無害な電流を用いて個人の睡眠を変化させ、強い影響力を持つ種類の夢の「明晰(めいせき)夢」を見られるようにする実験に成功したとの研究論文が11日、英科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」に掲載された。 論文を発表した独ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト(J.W. Goethe University Frankfurt)のウルズラ・ボス(Ursula Voss)氏率いる研究チームによると、今回の発見は、
文部科学省の有識者会議は、いじめやひきこもりの問題に脳科学や心理学の研究を生かしていくため、専門家と教育現場とで情報を共有する仕組みを作るべきだという提言をまとめました。 この有識者会議は精神医学の専門家や小児科の医師、保育園の園長などが参加して、2年にわたって検討を続けてきました。 25日まとまった提言では、いじめやひきこもりなどの背景に子どもの脳の働きや発達の問題があるとして、脳科学や心理学などの最新の研究結果をデータベース化し、専門家と教育関係者が情報を共有する仕組みを作るべきだとしています。 そのために、国立教育政策研究所に「情動研究・教育センター」という新たな部署を作り、乳幼児から小学生にかけての子どもの発達を定点観測することや、研究成果を保護者などにも分かりやすく解説しインターネットで公開していくことを提言しています。 文部科学省は「教員の経験だけでは対応しきれない問題が増えて
マウスの生体の脳を試薬を使ってほぼ完全に透明化し、細胞1つ1つのレベルで観察できる新技術を開発したと理研が発表した。 マウスの生体の脳を試薬を使ってほぼ完全に透明化する技術を開発したと理化学研究所が4月18日、発表した。透明化により脳全体の3次元イメージを細胞1つ1つのレベルで容易に取得できるようになり、脳活動の解析に役立つとしている。成果は「Cell」(4月24日号)に掲載される。 2011年に開発した、尿素を使った透明化試薬「Scale」をもとに、透明化に最適な組成を検討したところ、尿素に加え、アミノアルコールを含む組成が脳を透明化する活性が高いことを発見。試薬にサンプルを浸すだけでほぼ完全に透明化でき、再現性も高く複数のサンプルをほぼ同等の条件で比較できるのも特徴という。 透明化したことで、「シート照明顕微鏡」(横からレーザー光を照射してサンプルの平面を撮影し、これをZ方向に重ねるこ
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