映画版公開から20年を経て文庫版の重版が決定したチャック・パラニューク『ファイト・クラブ』。本書の巻末に収録されているアメリカ文学研究者・翻訳家の都甲幸治氏による解説を公開いたします。 『ファイト・クラブ』 チャック・パラニューク/池田真紀子訳 最近、君は自分が生きていると心から感じているか。『ファイト・クラブ』でパラニュークが僕たちに突き付けるのはこの問いである。周りの人たちの言うことを聞いて育ち、どうにかありついた仕事に就き、ようやく稼いだ金で物を買う。こうした日々の連続の中で、そもそも自分が何をしたかったのか、何が欲しかったのか、何をしているときが楽しいのか、そして誰を愛しているのかまでがぼんやりとしてくる。そんなとき僕らは、いったい誰の人生を生きているのだろうか。 パラニュークは言う。「我々は良い人間になるように育てられてきました。だからこそ、僕らの子ども時代のほとんどは周囲の期待