昔、東ドイツと呼ばれた国があった。陸上女子400メートルの世界記録保持者マリタ・コッホ、ソウル五輪の競泳で金メダル6個を手にしたクリスティン・オットーら伝説的な選手を輩出し、五輪で金メダルを量産するスポーツ大国として知られた。 だが、東独国家にとっては、選手は国威発揚の道具に過ぎなかった。一般国民も、秘密警察の監視下に置かれ、言論や移動の自由はもちろん、実質的には職業選択の自由すら与えられなかった。 その牢獄国家・東独が崩壊し、西ドイツに実質的に併合されてから、20年余り。旧東独市民で、反体制活動家だったヨアヒム・ガウク氏(72)が近く、「統一ドイツ」の大統領に選出される。 ドイツの大統領には実権はほとんどないが、国家元首として国を代表するほか、国民統合の象徴としての政治的中立性が求められる。さらに、ナチス時代の暗い過去を背負う国ゆえに、「過去に目を閉ざす者は、未来に対しても盲目となる」と