人形町「㐂寿司」のこと。 2018.12.25 連載 : 「㐂寿司」の365日。 「㐂寿司」の敷居はけっして低くはない。けれども、一歩足を踏み入れれば、そこは緊張感を強いることなく、気ままな空間であることを知る。「㐂寿司」の佇まいや設えは日本人のDNAに訴えるものがある。そして何よりも、鮨を食べるという欲望に自由に浸れる場所が、ずっとずっと人形町にあるという奇跡に、心が弾む。 人形町で、もうすぐ100年。 ガラガラッ。「㐂寿司」の暖簾をくぐり、曇り硝子の引き戸をあけると、ひと昔前の下町にタイムトリップしたような別世界が出現する。どっしりとした風格のある日本家屋。磨き上げられた檜のカウンター。昔ながらのガラス製のネタケース。つけ台の正面には季節の鮨種が書かれた木札が掲げられている。こんな風情ある鮨屋を東京で見かけることは、いまはもうほとんどなくなったーー。 「いらっしゃいませ。お待ちしており