本年度の第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオープニング上映されたことでも話題となった「あん」(現在公開中)を取り上げる。 「あん」は、ドリアン助川の同名の小説(ポプラ社刊)を原作に、「萌の朱雀」(1997)、「沙羅双樹」(2003)、「殯の森」(2007)、「2つ目の窓」(2014)等で知られる河瀨直美監督が、樹木希林を主演に撮った作品である。タイトルの「あん」は主人公の徳江(樹木)が作るどら焼きの餡(あん)を示している。 甘党でないどら焼き屋 桜が満開の頃、徳江は「どら春」にやって来た 東京郊外の桜通り沿いにあるどら焼き屋「どら春」が舞台である。店長の千太郎(永瀬正敏)は、若い頃に酒絡みで暴力事件を起こして服役した過去があり、店の先代のオーナーに示談金を肩代わりしてもらったことから、その借金を返すためにこの店で働いていた。 毎朝9時に来てどら焼きの皮を焼き、11時に店を開ける。