多行書きの川柳として川柳界で最もよく知られているのは、松本芳味の次の作品だろう。 これはたたみか 芒が原か 父かえせ 母かえせ 松本芳味の句集『難破船』の第二部は多行川柳で占められている。短歌・俳句にあるものはすべて川柳でも試みられている。川柳には自由律もあれば、短句(七七句)もあり、多行川柳もある。私は基本的に川柳は口語一行詩だと思っているので、自分では多行川柳を書くことはないが、ひとりの作者が多行作品に向かうときの必然性は否定しない。今回は川柳における多行書きの作品を振り返ってみたい。 多行川柳の試みとしてまず注目されるのは、新興川柳期の中島國夫である。新興川柳期には自由律についての議論が盛んで、それと関連して多行川柳も書かれている。中島國夫の作品から、定型・自由律・二行書き・三行書きを並べて紹介する。引用は『新興川柳選集』(たいまつ社)より。 カラクリを知らぬ軍歌が勇ましい みんなド