丶大法師の物語――『雫』と『八犬伝綺想』私論 『卑小の限りを生き、人の生が終わることなき闘いであると子に教え、勝利の決してありえない 戦いを戦って見せ、不可能性を生きて見せる父』 小谷野敦氏の「新編八犬伝綺想」は、退屈で封建主義的で古色蒼然とした勧善懲悪の概念だけ で出来上がっていると言われる「南総里見八犬伝」を、独特の読み方で鮮やかに切ってみせる。 それは今まで「八犬伝は退屈なもの」という固定観念にとらわれていた読み手の頭をひっくり返 し、読み手の前にこれまで見たことのない景色を現出せしめる。 そこに現れた世界を見て、私は思わず声を上げた。ああ、これは『雫』の世界だ。自分があの 作品に見いだし、その二次創作で書こうとしていたことがここにある。こういう視点で見ること で、雫という物語をよりうまく解説できるかもしれない。 試してみよう。雫と八犬伝綺想の世界をつなぎ、そこに現れる登場人物たちの