我々は先に、人情の一典型として、好きな対象物を巡る屈折感情を挙げた。大好きだがその感情自体は隠しておきたいので、反愛情的行動をとってしまう。あるいは、攻撃的態度をとるまでには至らないものの、やはり好意の対象物に自分の感情を悟られるのは恥ずかしいので、その隠蔽に軽躁してしまう。やがて、この“人情的行動”に付随する当該者の奇態行為は、“萌え”という感情の源泉になりうることを指摘した。 本稿では、ここで定義した“人情・萌え”という感情形態が、日本における伝統的な意識現象である“粋”を基盤にしていることを九鬼[1979]に基づいて明らかにしたい。