近代の心性とは商人のエートスである。 『タンポポ』(1985)に安岡力也がラーメン屋の改装を請け負う場面が出てくる。このとき、店主に好意のある安岡に対し山崎努が注意をする。曰く、金は当人に払わせろと。もし好意から無料でやってしまうと彼らの関係は徒党に堕ちてしまう。山崎はそれを恐れたのである。 近代の心性は徒党を何よりも嫌悪する。 ホッブズはコモンウェルス下の私兵を主権侵害として忌み嫌うのだが、彼はかかる集団を徒党と呼んでいる。 おそらく陸士中隊長の時分に辻ーんが「家来にならないか」と真崎甚三郎に勧誘されたことがあった*1。辻はそれをはねつけた。「閣下の家来になる前に陛下の家来である」と新井白石が嫌がるようなことをいった。参謀本部の下っ端将校の時には「郷里は何処か」と訊かれると「私の国は大日本帝国であります」と返した。毀誉褒貶の激しい辻ーんであるが、徒党や地縁に対しては妙に潔癖なところがあっ