前回はあまり内容に踏み込まず、SWCやレスター・テニー氏による抗議との間に齟齬があるのかどうかを主として検討した笹幸恵氏の「「バターン死の行進」女一人で踏破」(『文藝春秋』、2005年12月号)について私の評価をまずは述べます。 1. 笹論文の評価 わざわざ「死の行進」のルートを歩き直した労力に対しては「ご苦労さまでした」と申し上げるにやぶさかではありませんが、「「バターン死の行進」女一人で踏破」という記事そのものにはなんらポジティヴな意義を私は見いだせません。それは、彼女自身が「実際に歩いてみてわかったこと」を「第一に、「この距離を歩いただけでは人は死なない」ということ」と振り返っていることだけから考えても明白でしょう。良好な栄養状態にある健康な人間(たとえ数日前から下痢をしていたにしても)が、適宜食事と水を補給し夜はホテルで休みながら100キロちょっとの道のりを4日間で歩いた(その間殴