井上ひさしの作品は,特に大学生のころ熱心に読んだ.井上ひさしについてはいろいろと言われることはあるが,その作品はやはり一流のものであると思う.その作品世界には強くひかれるものがあり,私にとって,単に好きという以上に思い入れのある作家の一人である.今でも本屋に行くと,必ずその作品を探すのだけれども,最近は本屋の棚に並んでいることが少なく,残念に思っていた.ところが,この手鎖心中は2009年に新装版の文庫となっていたようで,見つけるとすぐに買い,再読してみた.それからまた随分時間がたったのだけれども,ここにエントリを書いてみたいと思う. 手鎖心中は1972年,井上ひさしが38歳のときの作品で,直木賞受賞作でもある.井上ひさしの初期の代表作の一つと言っていいのではないだろうか.今まで何度か読み直したが,その度にいつも感じるのは,ある種はらはらさせられるような,まっすぐさのようなものである.さらに