この季節はとにかく暑くて湿度が高く,一年を通じて最も嫌な時期である.外出すると,息をするのも苦しいような暑さと湿度のため耐えられないような気分になり,さらに,汗でシャツがじっとりとしてくると,それがまた不快さを増大させていく. こういった暑い日によく思い出す小説が芥川龍之介の「酒虫(しゅちゅう)」という短編小説であり,今回のエントリでは,それについて書いてみたい. この小説は,もともと,聊斎志異の中にあるエピソードに基づいているという.芥川の酒虫では,昔の中国の或る地方の素封家である,劉が主人公となっている.劉は,人並みはずれた酒豪でもあった.あるとき,この劉の元に,西域から来た一人の僧が訪れる.その僧は,劉がいくら酒を飲んでも酔わないのは,病のせいであるという.そして,その病は,劉の腹中に住んでいる,「酒虫」を取り除かないと治らないというのであった. 劉は,その僧に,酒虫を取り除くよう依