「大器晩成」という言葉があるが、これは三十代、四十代になっても芽が出ないような人を慰めるための言葉のような気もする。たとえば古今亭志ん朝が真打に昇進した時の落語を聴いたことがあるが、最初から上手いのである。立川談志でも春風亭小朝でも、最初から上手かった。まあ三遊亭圓生などは、はじめは受けなかったと言っていたから晩成型かもしれないし、柳家小三治は最初はあまり上手くなかった。どちらもある、でいいのだが、中島みゆきは、今にして思うと最初から大器だったのだな、と思わせられる歌手である。 ところが、ほかにもそういう人はいるかもしれないが、幸福な恋愛とそのヴァリエーションを歌う松任谷由実に比べて、不幸な恋愛を歌う中島みゆきは、いつまでもマイナーな人間たちの側にいるはずだと何となく思っていて、今世紀に入ってからの、「国民歌手」への歩みを、裏切られたように感じる、そんな気持ちが私にもある。そして振り返って