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ブックマーク / booklog.kinokuniya.co.jp (73)

  • 『安部公房伝』 安部ねり (新潮社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 安部公房の一人娘、ねり氏による父親の伝記である。 実の娘というだけでなく、日の全集のレベルを越える完全編年体の精緻な『安部公房全集』を編纂した人の書いた伝記だけに、資料的価値が高いことはいうまでもない。さまざまな年譜や事典の記述、最近の『安部公房・荒野の人』にいたるまでに蓄積してきた誤りを正し、安部公房の伝記的事実を明確にしたのはもちろん、別刷の写真ページが48ページもある。それ以外にも多数の写真が掲載されており、そのほとんどが今回はじめて公開されたものだ。 最後のセクションは「インタビュー」となっていて、『安部公房全集』の月報に掲載された関係者25名のインタビューを再録している。すでに鬼籍にはいった人がすくなくなく、関係者の日記でも発見されない限りこれ以上の話は出てこないだろう。 安部の小説によく登場する山師のモデルとおぼしき叔父がいたり、安部公房自身も叔父から受

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  • 『ギリシア・ローマ時代の書物』 ホルスト・ブランク (朝文社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 ホメロスの叙事詩が筆記されはじめた頃からローマの公共図書館が荒廃に帰すまでの千年間の書物の歴史を描いたである。著者のホルスト・ブランクは考古学と文献学を学んだ後、ローマにあるドイツ考古学研究所附属図書館に司書として勤務している人だそうである。 ギリシア文字とローマ字の起源から書き起こし、古代人の読み書き能力、古代の書写材料と項目がならぶのを見て総花的なかなと思ったが、読んでみると総花的というより体系的・網羅的なだった。ドイツ人の几帳面さがいい意味で発揮されていて、現在わかっている限りの知識はすべてここに集められているのではないかという気がしてくる。 文字の歴史についてはそれなりに月謝を払ってきたつもりだったが、ギリシア数字に先んじてアッティカ方式と呼ばれる数字記法があったとは知らなかった。文字は奥が深い。 古代の書写材料については無機書写材料と有機書写材料に大き

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  • 『安部公房伝』安部ねり(新潮社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「通路の堀り方」 母方からの遺伝だと思うが、筆者は小さい頃から算数が苦手であった。現在、ある学会の事務局で働いており、この時期になると予算だの決算だので「租税公課支出」とか「他会計振替収入」とか「前期繰越収支差額」といった神秘的な言葉のならんだ表にどんどん数字を入れていかなくてはならないのだが――大きい声では言えないが――ゼロの数をひとつふたつ間違えるということがよくある。エクセルの欄に変な数字を入れてしまい、ファイルの方が「ぎゃっ!」というような表示を出すこともある。 そんなわけなので、かつて安部公房の小説をはじめて読んだときには、何となくその「数学のにおい」に違和感をおぼえて今ひとつ熱中できなかったおぼえがある。筆者くらいの世代だと、若い頃はまだまだこの作家の名前は有効で、大学の同級生でも「好きな作家は?」と聞かれて(そもそもこの質問自体、今では無効だろうが)、「

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  • 『美の歴史』 エーコ&デ・ミケーレ (東洋書院) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 エーコが美術史家のジローラモ・デ・ミケーレとともに編纂した西洋三千年の美の歴史である。450ページ近い大冊に300点以上の大判のカラー図版がひしめいており、美しい印刷、ゴージャスな装丁、ずしりとした重さと所有欲を満たしてくれるだ。 姉妹編の『醜の歴史』も邦訳されているが、第三作となる "The Infinity of Lists"(『無限のカタログ』)も欧米で好評を博している。 最初に芸術の歴史ではなく美の歴史だと断ってあるように、書は単なる美術史のではない。図版とともに古代ギリシアから現代にいたるさまざまな文章が引用されており、美をめぐる詞華集ともなっているのだ。 美術史としては特にどうということはないが、哲学や神学や文学、さらには社会史までからめるとなると博識をもって鳴るエーコの独擅場である。 古代ギリシアにおいて美が自覚的に論じられるようになった時、ピタゴ

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    mshkh
    mshkh 2011/03/07
    この本買いたいけど,8400円か・・・
  • 『ねむれ巴里』金子光晴(中公文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「巴里の光と影」 今パリには旅行者を除いても、常時2万人以上の日人が滞在しているらしい。在仏日人会も機能しているし、日料理店は1千軒ほどもあるようだ。最もその9割以上は、日ブームに乗りたい輩の経営する「和もどき」を提供しているが。金子光晴の『ねむれ巴里』は、1929年から2年間に渡るパリ滞在記である。日人会も無く、和など炊いた白米に生卵があれば上等といった時代の、はぐれ者たちのパリ生活は非常に興味深い。 先にパリに着いているの三千代に合流するために、何とか船賃を手に入れて乗船する。船の中も面白いが、パリでの破天荒な生活は見事だ。ほぼ文無しなので、金を手に入れるために何でもやる。会費の取立て、額縁作り、論文代作、大使館員への詐欺……そしてパリ、フランス人に対する強烈な悪罵。「頭を冷やしてながめれば、この土地は、どっちをむいても、むごい計算ずくめなのだ。

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  • 『望遠鏡以前の天文学』 ウォーカー編 (恒星社厚生閣) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 天文学は望遠鏡の登場で大きく変わったが、書は望遠鏡以前の天文学を17章にわけて通覧した論集である(邦訳版は13章)。副題に「古代からケプラーまで」とあるが、ヨーロッパだけではなく、インド、イスラム圏、極東(中国・朝鮮・日)、さらには邦訳では割愛されてはいるが、マヤ、アステカ、アフリカ、大洋州(アボリジニー・ポリネシア・マオリ)、先史巨石文明時代のヨーロッパまでおさえている。この目配りのよさは大英帝国の遺産かもしれない。 執筆者も多岐にわたり、英米の大学や博物館に籍をおく天文学史、科学史、古典学、考古学の専門家が参加している。中には天文学を専攻したことのある投資家という肩書の人もいるが、趣味で研究をつづけているのだろうか。 個別に見ていこう。 「エジプトの天文学」(ウェルズ) 古代エジプト人は一年を365日とする暦を用いていたり、星の位置によってナイル河の氾濫の時期

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    mshkh
    mshkh 2010/12/27
    面白そう.邦訳では削除されている章があるようなので,原書を読むといいかも
  • 『シズコさん』佐野洋子(新潮文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 母親にとって娘はもっとも近しい同性、つまりいちばんの批評家なので、女の人が母親について書いたものを読むのは楽しい(息子のそれはあまり読みたくないが)。わけてもこの、娘・洋子の書いた母・シズコさんのおはなしは格別である。 それにしても、なんと猛烈な書きっぷりだろう。母とは慈愛に満ちているものと思い込んでいる人が読めば、シズコさんという母親はきっと鬼にみえると思う。 妹が「私母さんの手紙の『母より』って字を見るのが、すごーく嫌だ、気持ちが悪い」と云ったので、「えーあんたも。やだね、あの『母より』って字見ると手紙読みたくなくなる」そして読まない時もあった。 この姉妹の会話ひとつとっても、シズコさんがどんな母親、どんな女性であったのかがよくわかる。 身ぎれいで、戦後のモノのない時代でも化粧をし口紅を塗り、いつも実年齢より若くみられていたシズコさん。客好きで、おいしい料理を手早

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    mshkh
    mshkh 2010/12/02
    なんか泣けてくる.ぜひ読んでみたい
  • 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒』菅瀬晶子(山川出版社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 人口の99%以上がイスラーム教徒である中東において、キリスト教徒などとるに足らない存在にすぎなく、研究する価値などないように思うかもしれない。来、まったく無視してもいい人はひとりもいないのだが、マイノリティのなかには、社会への影響という点において、マジョリティの人びとと大差なくあまり存在感のない人びともいれば、数において少数であっても大きな存在感のある人びともいる。中東のキリスト教徒は、後者である。 著者、菅瀬晶子は、中東のキリスト教について、つぎのように紹介している。「ユダヤ教の一分派として誕生したキリスト教が、独自の聖典であるギリシャ語の七〇人訳聖書を掲げてユダヤ教から正式に分離したのが、イエスの死後およそ七〇年をへた紀元一世紀末のことである。その後教会は幾多の分裂を繰り返し、現在にいたっているが、とりわけ中東には初期の頃に分派し、ヨーロッパで発達したローマ・カ

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    mshkh
    mshkh 2010/09/07
    これは面白そう
  • 『解読ユダの福音書』ジャック・ファン・デル・フリ-ト(教文館) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「一級のミステリー」 これは二〇〇六年五月に初めてコプト語の原文が発表された『ユダの福音書』の文とその読解である。新約聖書の伝統的な外典には、このような文書は存在しない。「裏切り者」のユダを書き手あるいは主人公とする福音書があるわけがないのだ。そして予想にたがわず、これはグノーシス文書である。 それは冒頭近くで、イエスが自分は誰かという有名な問いをすると、ユダはこれに「あなたは、不死なる者すなわちバルベーローのアイオーンから来られ、そしてその名を私が口から発するのがふさわしくない、そのお方からあなたは発してきたのです」(p.88)と答えていることからも明らかだろう。この固有名と名詞は、グノーシスの重要な名だからだ。 しかしこれまで発見されてきたグノーシス文書と違うのは、これがあくまでも新約聖書の他の福音書と同じように、キリスト教の聖書の物語の内部に、まるで象眼される

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  • 『聖なる共同体の人々』坂井信生(九州大学出版会) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「ウェーバーのテーゼの検証」 この書物は、アメリカ、カナダ、メキシコに移住した再洗礼派の共同体のルポルタージュであり、アーミシュ、ハッタライト、メノー派の共同体の現在の状況が報告されている。映画『刑事ジョン・ブック目撃者』)で描かれたアーミシュの共同体は圧倒的な迫力だった。とくに村を挙げての納屋の建築と、緊急を知らせる鐘の音に集まる村人たちの姿が印象的だった。 そして書によると、あの映画が撮影されたのは、伝統をあくまでも固持する旧派アーミシュのペンシルヴァニア州ランカスターであり、現在でも映画の撮影当時と状況はほとんど変わっていないらしい。 書が興味深いのは、こうした「聖なる共同体」で暮らす人々の暮らしぶりの面白さだけではなく、宗教的な伝統を維持した再洗礼派の共同体において、ウェーバーが示したテーゼがどのように検証され、彼が指摘した逆説がどのように回避されるかを明

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  • 『ケンブリッジ・サーカス』柴田元幸(スイッチ・パブリッシング) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    mshkh
    mshkh 2010/04/06
    「ケンブリッジ・サーカス」この本は読んでみたいかも
  • 『いかにしてともに生きるか ―コレージュ・ド・フランス講義 1976-1977年度』 バルト (筑摩書房) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 フランスにはコレージュ・ド・フランスという毛色の変わった学校がある。入学試験も卒業証書もなく、知的好奇心のある人は誰でも無料で自由に受講できるのだ。 というと市民講座のようなものかと思うかもしれないが、市民講座とは格が違う。創立は1530年でフランソワ一世の時代。教授陣は世界的に名の知られた学者で、最近ではレヴィ=ストロース、ミシェル・フーコー、ジャック・モノーがいた。ちょっと前だとメルロー=ポンティ、レイモン・アロン、ポール・ヴァレリーがいたし、歴史をさかのぼればキュリー夫人の夫のジョリオ・キュリーやミシュレもそうだった。市民サービスなどは一切考えずに、世界最高の学者が最先端の研究成果を世に問う場所なのである。 コレージュ・ド・フランスの教授になることはその分野でフランス最高の権威と認められるに等しいが、面白いのはアカデミズムと微妙に対立関係にあることだ。 たとえば

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  • 『namesake』 Jhumpa Lahiri(Mariner Books) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    mshkh
    mshkh 2010/03/22
    確かに,名前に関するこの手の話はよく聞く
  • 『旧約聖書の誕生』加藤隆(筑摩書房) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「行き届いた旧約入門書」 著者は新約学者だが、この旧約聖書への入門書も懇切丁寧な作りで、聖書への理解を深めるために役立つだろう。旧約聖書の基的な構成、聖典としての確立の状況、ヤハヴェという神の名の呼び方の由来など、基となる事柄はきちんと説明されているし、それぞれの書物ごとにその特徴が要約されていて、わかりやすい。「汽笛一声新橋を」の節で歌われる聖書の順序の記憶方法まで紹介されていて、つい笑ってしまった。 書の特徴は、旧約聖書で語られる物語の順に考察するのではなく、ほぼ成立した時代ごとに紹介しているために、その成立の背景なども一緒に理解できることだろう。「出エジプト記」の後は、イスラエル統一王国時代に成立したとみられる「創世記」について、ヤーヴェ資料を中心に説明される。次の北王国時代の文書として預言者エリヤ、エリシャ、アモス、ホセアについて説明され、ふたたび「創世

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  • ピアニスト、国立音楽大学大学院・今井顕の書評ブログ : 『挑戦するピアニスト──独学の流儀』金子一朗(春秋社)

    今井顕 (いまい・あきら) ピアニスト・国立音楽大学大学院教授・社団法人全日ピアノ指導者協会評議員 16歳で渡欧、ウィーン国立音楽大学に入学、19歳で卒業。数々の国際コンクールで頭角を現し、日の誇る国際派コンサートピアニストとして活躍中。24年ものあいだヨーロッパに滞在し、ウィーン国立音楽大学ピアノ専攻科にて日人初の講師/客員教授として教鞭を執った。 今井顕のHPへ →bookwebで購入 「どう練習したら上手になるのか悩んでいるピアノ学習者のために」 著者の金子はピアニストとして活躍中だ。デビューは40代になってから、と遅かった。しかしその演奏は多くの人を魅了し続け、ファンの数も半端ではない。中でもドビュッシーは金子のレパートリーの中でも核となるもので、CDもリリースされている。 ところで金子の職は、驚くなかれ、中高一貫の某超有名普通校の数学の教諭なのだ。出身も早稲田大

  • 『塩の道』宮本常一(講談社学術文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「一尾のイワシは4日かけてべる!」 フランスは塩が豊富だ。地中海でも大西洋でも作っているが、ブルターニュの「ゲランドの塩」は日でも有名だろう。特に「fleur de sel(塩の花)」と呼ばれる最高級のものは、料理の素材が何であれこれだけで味付けして美味しいし、ワインと抜群の相性だ。日ももちろん島国で海に囲まれているのだから、古来塩は豊富であったはずだ。とは言えそれは海岸部での話で、山間部では上杉謙信と武田信玄の「敵に塩を送る」というエピソードで有名なように、塩が不足していた。当然そこには塩を運搬する「塩の道」が存在する。 料がなくとも、塩と水があればしばらく人は生きていられるとも良く聞く。だがこれほど身近な塩なのに、塩の「歴史についての研究は、昭和の初めまでわれわれの目にとまるようなものがなかった」と宮常一は『塩の道』で語る。 揚浜式から入浜式、土釜、鉄釜

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  • 『通訳ダニエル・シュタイン』リュドミラ・ウリツカヤ(新潮社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「瞠目させられる構成力、驚愕の書」 2009年に読んだでもっとも驚いたといえば、この『通訳ダニエル・シュタイン』である。さまざまなことに驚愕したが、まずは作品の形式だ。 最初の章はエヴァ・マヌキャンという女性の独り語りである。つぎの章では1章に出てきたエステル・ハントマンという女性に語り手がバトンタッチされる。それぞれに日付と場所が書かれていて、エヴァは「1985年12月 ボストン」、エステルは「1986年1月 ボストン」。 ふたりが交互に語っていくのだろうと思って読み進んでいくと、3章ではイサーク・ハントマンという男性に語り手が替わり、時間も過去にさかのぼって「1959年〜83年」になる。名字がエステルと同じなので血縁とわかるが、説明的なことは書かれてない。 4章ではさらに時空が飛ぶ。「1946年1月 ヴロツワフ」となり、 エフライム・ツヴ

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  • 『ニッポンの思想』佐々木敦(講談社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「で、それが何?」 批評家は概して怒りっぽい。たぶん批評とは、苛々したり、激しく軽蔑したり、噛みついたり、憤りつつ励ましたりということをスタイルとして織りこんだものなのだ。少なくとも「ニッポンの批評」は。 そういう批評家たちの中でも、とりわけ派手な切った張ったの多かった一群の批評家たちがいた。八〇年代に一世を風靡したニューアカデミズム、いわゆる「ニューアカ」である。この「ニューアカ」を、浅田彰の『構造と力』を出発点としたひとつの持続的な系譜ととらえ、80年代からゼロ年代にかけての批評の流れを整理してみせるのがこの『ニッポンの思想』である。 しかし、そうした内容ののわりに目につくのは、一見した毒気のなさである。乱闘現場に乗りこんでいくにしては、スルッとスマートでおとなしい。この著者は、すごくいい人なのではないかと錯覚しそうになるほどだ。 だが、実はこういうスルッとスマ

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  • 『酒肴酒(さけさかなさけ)』吉田健一(光文社文庫) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「酒仙のエスプリ」 近年これほど痛快かつ爽快なを読んだことはない。吉田健一は吉田茂の息子であり、そのおかげで幼少期よりイギリス、フランス、中国等で暮らしている。当時としては珍しく、和以外のものを詳しく知っていた。ケンブリッジ大学で学んだ秀才でもあるが、そんな事はどうでも良くなってくるほど、このエッセイは面白いし、酒好きにはたまらない魅力に充ちている。 『酒肴酒(さけさかなさけ)』と題するだけあって、中身は酒と肴の話ばかりだ。しかし、一体誰が次のような事を堂々と書けるだろうか。長崎で卓袱料理べて酒を飲んでいる時「べながら飲むという、いしんぼうで飲み助であるすべての健全な人間の理想を嫌でも実現することになる」、中華料理屋で美味しいお菓子を見つけ「この晶蘇というビスケットなどは、魯迅のどんな作品よりもうまかった」、フランス料理とワインを合わせながら「酒を飲む分に

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  • 『漢字廃止で韓国に何が起きたか』 呉善花 (PHP新書) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 幕末から1980年代まで漢字廃止運動という妖怪が日を跋扈していた。戦前は「我が国語文章界が、依然支那の下にへたばり付いて居るとは情けない次第」(上田萬年)というアジア蔑視をともなう近代化ナショナリズムが、戦後は漢字が軍国主義を助長したという左翼の神話(実際は陸軍は漢字削減派だった)が運動のエネルギー源となり、実業界の資金援助を受けてさまざまな実験がおこなわれた(キーボードのJISカナ配列はその名残である)。 1946年に告示された1850字の漢字表が「当用」漢字表と呼ばれたのも、いきなり漢字を全廃すると混乱が起こるので「当面用いる」漢字を決めたということであって、あくまで漢字廃止の一段階にすぎなかった。 当用漢字表の実験によって漢字廃止が不可能だという認識が広まり、1965年に国語審議会は漢字仮名交じり文を認める決定をおこなったが、漢字廃止派はこの決定を正式の文書に

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    mshkh
    mshkh 2009/11/30
    興味深い.読んでみたい