東京の坂を歩き巡るようになって108つ目に訪れた坂が、渋谷区猿楽町にある『天狗坂』だった。特に意識していたわけではないが、私の百八つの煩悩を天狗さまが大団扇を煽いで振り払ってくれるために、ここに引き寄せられたのだろうか。 『渋谷』といっても繁華街にあるわけではなく、渋谷駅から直線距離にして南に600mほど下った、3~4階建ての低層のビル・マンションが立ち並ぶ路地にある小さな坂である。全長わずか36m、標高差2m、幅員4mほどしかないコンクリート舗装の坂で、滑り止めに円形の凹型が坂一面に付けられている。 センターラインの付いた道を進むと、坂はビルとビルの間に突然現れる。道の中央部の左右に車止めのための高さ50~60cm、縦横20cm程度の二本の石柱が埋められている。 坂下から上を望むと、坂の上にも石柱が中央に一本置かれている。坂下にある日本の石柱に比べると、やや大きく見える。坂を上っていくと