瀬戸内海を見渡す鉄工所。そこには溶接の真っ赤な光も見えないし、金属を切る甲高い音も聞こえない。代わりに感じられるのは、ほのかに香ばしい磯のにおい。ふりかけやせんべい、だしといった加工食品を生み出し、内外の料理人らをうならせている。 広島県呉市の中心部から車で30分。曲がりくねった山道を進むと、緑に覆われた段々畑の合間に顔をのぞかせる鉄骨造りの工場が「瀬戸鉄工」だ。 45年前の創業直後は、側溝用のふたや鉄管といった金属製品を、家族経営で作ってきた。その後、携帯電話向けのプラスチック加工にも参入したが、小さな町工場に変わりはなかった。 変身のきっかけは約30年前、近くの港町の食品メーカーから、イカの姿フライの容器づくりを頼まれたことだった。初代社長の瀬戸敏秀さん(故人)が工場を訪れると、姿フライを手作業で一つひとつ作っていた。「自動化すればもっと効率よく大量生産できるのに」。アイデアマンの血が