「中生(ちゅうなま)ください」 「はい。生中(なまちゅう)ですね?」 「や、中生だよ」 「……」 居酒屋でのワンシーン。 店員が注文を復唱するとき、僕は必ずといっていいほど、この問答をする。 これは、お客様の注文した通りに復唱せい、という輩気質(やからきしつ)から生じるものではなく、省略形を使うなら正しい省略形を遣え、という憂慮から生じるものだ。 僕が注文したのは「中生」。 中ジョッキに入った生ビール、の略。 彼が復唱したのは「生中」。 生ビールが入った中ジョッキ。或いは、生ビール(中)、の略。 お分かりいただけるだろうか? 主体が入れ替わっているのだ。 ワインに置き換えると瞬殺氷解する。 「グラスワインください」 「はい。ワイングラスですね?」 誰がわざわざ酒場までやって来て器のほうを注文するだろうか? ちょっと考えれば分かりそうなものだが、世間の認知度的にはどちらも通用しているので、そ