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  • 14 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    確かに、あっという間の出来事ではあった。 スプーンの頭が柄の部分からずるりともげ落ち、白いテーブルクロスの上に音を立てて落ちた。 「…………」 強引にひん曲げたり、無理矢理捩じ切ってみせたのなら、壱八もこれほど驚きはしなかっただろう。しかも、青年がスプーンの首に触れたのは、ほんの僅かな時間でしかなかった。 どうして、こんなに呆気なく。 胴体から切断され、なおも黄金色に輝くスプーンの頭をテーブルから拾い上げた大賀飛駆は、柄の部分と併せて朱良に手渡した。勝ち持った表情をしてもよいくらいなのに、青年の面持ちは何故か暗く沈んだままだった。 スプーンの折れた箇所は、まさに切断されたというに相応しい綺麗な断面を、外気と衆人の視線に晒していた。手で捩じ切ってこうも美しい切断面になるとは、物理的に、常識的に考えづらい。俄かにも、かつ長い目で見ても信じがたいことだった。 違うのか。壱八の当感は、そう簡単には

    14 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/14
  • 13 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「なるほどね。筧と教授が殺害されたとき、君は独りで寝室にいたと。判りました、ありがとうございます」 飛駆青年の証言を将門がどう思っているのか、壱八には見当もつかなかったが、ともあれ、これでアリバイ証言を残すのは春霧空のみとなった。 質問を向けられるや、ただでさえ色素に乏しい少女の両頬は紙のような生気の失せた白に褪せ、黒目がちな瞳には早くも潤みが生じていた。 「わたしも、家に、いました」 震えを帯びた空の声。心なしか、長い髪を後ろに流した肩口までもが震えているように見えた。 「空ちゃん、怖がらないでいいんですよ。わちきはあなたが思うような悪いお姉ちゃんじゃありませんので」 お姉ちゃんという半分偽りの言葉に朱良がどう反応するか窺い見てみたが、表立っての反論はなかった代わりに、緩めの膝蹴りをこっそり太腿に受けた。将門への不満が凡てこちらに向かってくるのだとすると、全く割に合わない。 「では空ちゃ

    13 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/13
  • 12 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    収録スタジオで初めて見た教授の姿にプロデューサーの説明を重ね合わせ、壱八は十条教授のイメージ映像を克明に描き出そうとした。うろ覚えの記憶に基づく容姿から判断すると、理屈っぽくて頑迷な合理主義者といったところか。テレビ出演の承諾を得るだけでも大変だったそうで、頑固一徹キャラの超常現象否定論者が第一部の職員会議には不可欠なため、八方手を尽くしてどうにか彼を口説き落としたのだという。 人当たりは良くも悪くもなく、その日の機嫌一つで態度や口調がコロコロ変わる、大層な気分屋だったらしい。とはいえ、超常現象に対する考え方は気分で変化することもなかった。超常現象全般を〈蒙昧な輩の世迷い言〉と両断する姿勢は、少なからず肯定論者の反感を買っていたが、私生活でも問題の多かった筧や塞の神に比べれば、教授に怨恨を抱く人物はだいぶ限定されそうな気がする。 いずれにしろ、肯定派も否定派も巻き込んで殺人を繰り返す犯人の

    12 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/12
  • 11 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    二人の様子を見て取り、将門は残念そうに顎を撫でさすったが、すぐに気を取り直して、 「あなた方から見て、殺害された三人はどのような方々だったのでしょうか」 「どのようなとは?」 「人柄とか、あと対人的なものに関してです」 「つまり、対人関係で問題を起こすような性格だったかってこと?」 怨恨の線を念頭に置いての質問だろう。将門の聞き込みは、いよいよ核心に迫ろうとしていた。 「ええ。プロデューサーのあなたなら、出演者の性格や性質も知悉しているのでは」 「まあ、ある程度は」 「飛駆君と空ちゃんの意見も是非伺ってみたいんですが」 コーヒーカップに口をつけていた飛駆青年が動きを止め、将門を静かに見上げた。青年の動向にプロデューサーは監視者然と眼を光らせ、更にはその彼女を少女が不安げに見つめている。 「僕は、空もそうですけど」錯綜した視線がテーブル上を飛び交う中、青年は途切れがちに声を発した。「二部の人

    11 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/11
  • 10 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「円筒さん、あなたの話は判りました。でも、ご覧の通り今ちょっと取り込んでるの。訊きたいことがあるなら、また後日」 「お手間は取らせません。少しだけお時間頂けないでしょうか。実はあなただけでなく、そちらのお二方にもお伺いしたいんです。例の事件について」 えっと不意を衝かれた声を洩らし、若い二人は顔を見合わせた。少女の瞳に、ふと怯えの影が差したように見えた。 「ちょっと。二人を脅かすような発言はやめてくださらない? 飛駆も空も、そのことで神経が過敏になってるの」 取ってつけたような口上だが、互いに不安げな両者を見るにつけ、全くの出任せというわけでもなさそうだ。 「どうか心配なさらないで。無礼千万は重々承知しています。ただ、刑事みたいに質問責めで洗い浚い吐かせようとか、そんなつもりは全然ないんです。プライバシーに関わる部分は答えなくて結構ですし、深く突っ込んで訊いたりしませんので」 言い諭すよう

    10 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/10
  • 9 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    駅前から続く歩道を、テレビ局の方向へ進んだ。前回より人の数は格段に多い。ヴァニラの懐かしい甘い香りが欲をそそるアイスクリームショップには、歩行に支障を来すほど大勢の人々が群がっている。客層も未成年者が大半を占めていた。 「今日は若いのが多いな」 「日曜だからでしょう」 「あ、そっか」 壱八の不自然な間を見逃すはずもなく、朱良の鋭い声が飛ぶ。 「この間抜け。曜日ぐらい憶えとけ」 「うるさいな。俺は時間に縛られるのが嫌いなんだよ」 「出た、日常の時間にもろくに対応できない無能者の常套句。この能なし」 何遍も頭ごなしに無能呼ばわりされると、腹が立つ代わりに自分が物の無能者なのではと思えてくる。慣れは恐ろしい。 「曲がりますよ」 二人を促し、将門は先頭に立って幅狭い脇道に入った。途端に人波が途絶え、近隣の建造物も小ぢんまりしたビルが目立つようになる。 直進すれば反対側の大通りに出るのだが、将門

    9 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/08
  • 8 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    デリバリースタッフの仕事を挟んでその翌朝、壱八は二日ぶりの着信音に熟睡を妨げられ、開かない眼を擦り擦りスマホを取り上げた。相手はやはり将門で、朗報が入ったという。電話越しの声つきからも、それは明瞭に察せられた。 日昼頃、極東テレビ内で〈ガダラ・マダラ〉スタッフと第二部〈ガダマダ学園トンデモ部活動〉の出演者による番組のミーティングが行われる。司会の我王区は来ないが、それ以外の事件関係者と思しき面々、プロデューサー南枳実、チーフディレクター渕崎柾騎、異能力者大賀飛駆及び春霧空の四名が、数時間後に局内に集結するというのだ。 確かに四人まとめて話が聞けるなら、一人一人に当たる手間が省け、将門としても大いに望むところだろう。しかしあの渕崎が一緒では、残る三名への聞き込みもままならないのではないか。そう伝えると、将門は心配ご無用と見得を切って、 「問題はその後です。情報筋によると、ミーティングの後、

    8 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/07
  • 7 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「この服装なら大抵の男は口を割るんですが、あの渕崎って男、一筋縄じゃいかないですね」 急降下する狭いエレベーターの中、壱八に名刺の入ったポーチを再び預けると、将門は小さな溜め息に声を乗せてそう洩らした。 少なからず勝算があったのだろうが、自慢の美貌も肉体美も禿頭のチーフディレクターには通用しなかった。女も男も裸同然と公言する一方、どうもこの占い師は男という生き物を軽視する傾向にある。今日の短い会見は、半陰陽の惨敗だった。 「お前が自信過剰なだけだ、一筋縄どうこうじゃなくて」 「あら、言ってくれますね」 体全体を擦り寄せ、甘え気味に胸許に撓垂れかかってきた。壱八の脚を押さえつけるように自分の脚を絡め、誘惑の眼差しで上目に仰ぎ見る。大胆に開かれた胸刳りの間で、肢体に相応しい盛り上がりを見せる双つの膨らみの柔らかい感触に、壱八は慄然と総毛立った。 「ねえ壱八君。わちきの美しさがあんな茹で卵みたい

    7 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/06
  • 6 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    広い室内に、方形に並んだ木目調のテーブルがまず眼に映った。奥の壁には移動式のホワイトボード。もっと小道具のごちゃごちゃした、小汚い部屋を壱八は想像していたが、殺風景な部屋を見て何だか肩透かしを喰らった気分だった。 「ん、誰だ君らは」 ホワイトボード手前のテーブルに、肩幅の広い禿頭の男性が独り腰かけていた。男の前には何冊もの薄い雑誌がバラバラに積み上がっていた。 「会社の人間じゃないな。何の用だ。誰の許可を得てここに来た?」 そう息巻く彼は、前の塞の神毒殺事件で、救護班の近くにいたスキンヘッドの男だった。 訝しげな眼で遠慮なく二人を見る男に、将門は新しい名刺を差し出し、柔らかな声つきで、 「夜鳥プロダクションの渕崎さんですね」 「ああそうだけど」 「初めまして。わちき、占い稼業を営む円筒将門といいます。話は伺ってると思いますが」 色香のある口調で囁くように言われ、スキンヘッドは思案顔で少々垂

    6 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/05
  • 5 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    将門指定の待ち合わせ場所は、とある駅の改札横にある銅製の彫像前。餌をやりすぎて膨れ上がった奇形の兎じみた、可愛らしさと前衛っぽさを折衷したオブジェは、待ち合わせの目印にしては地味で規模も小さい。電車を降りて改札を通過した際も、将門の他にその銅像付近を待ち合わせ目的に利用している者は見当たらなかった。 「やっと来ましたね。じゃ、早速動きましょうか」 前回の質素な服装に比べると、今日の占い師はある種挑発的とも挑戦的ともいえる装いだ。穏やかな気温のせいもあろうが、ジャケットも羽織らずデコルテ風の格調高いワンピースのみ。露骨に胸の谷間を強調した青い襟刳りに、金のチョーカーが華々しく映えて見える。手首には金のブレスレット、そしてご丁寧に足首にまでアンクレット。全身で美のイデアを現前させようとでもいうのか。 「いいのかよ、そんな人目を惹く恰好で」 事実、その服装は雑然とした改札周辺にあって場違いなくら

    5 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/04
  • 4 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    褪色したグリーンの背中が通行口の奥に消え、将門は疲れたように両手を後頭部に回した。 「あの刑事のせいで居辛くなっちゃいましたね。このカフェテラス、凄く気に入ってたんですけど」 元を正せば将門の無軌道な発言が騒ぎの発端なのだが、そもそも警察に情報を請う発想そのものが、自己中心的な思いつきに過ぎないのだ。先が思いやられ、壱八は暗澹たる気分に沈んだ。 「情報収集は後回しにするしかなさそうですね」 「仕方ないだろ。どうしてもっていうなら、知り合いの情報屋とやらに頑張ってもらうしか」 「そのようですね。彼には結構な額のお金も貸してるので、精々こき使ってやります」 「高利貸しのほうが向いてそうだな」 「あなたもマサカド金融のお世話になりますか」 「笑えないジョークだ」 活気の衰えぬ街並に燦々と降り注ぐ秋の陽光は、少しずつだが確実に西の空へ傾きつつあった。パラソルの円い縁を焦がさんばかりに照り輝く射光に

    4 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/10/03
  • 3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    平らげたパフェのグラスを押し退け、上目遣いに刑事を睨みつける将門。 「〈ガダラ・マダラ〉の連続殺人の話をしていました。それが何か」 「ほほう。おや、その新聞は浦河(うらかわ)さんが殺害された翌日の朝刊ですな。私も見た憶えがありますよ」 「浦河さん?」思わず声を上げる壱八。 「塞の神さんの名です。浦河紀世彦(きよひこ)さん。そこにも載っているはずですが」 ちゃんと読めって言ったのに、と非難めいた声つきで将門。 「これで三人目ですよ。〈ガダラ・マダラ〉の出演者が殺害されたのは。呪いだとか祟りだとか、能天気揃いのマスコミは気楽に吹聴してますが、我々としてはもうそろそろホシを挙げたいところなんですよね。警視庁の威信もありますし」 津村刑事の言葉には、威信とはかけ離れた飄々とした雰囲気さえ感じられたけれども、占い師に注がれる眼光は厳しかった。 「円筒将門さん」テーブルに両手を突き、刑事は声に力を込

    3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/09/30
  • 2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    大型スクリーンの周りで盛んに事件を囃し立てていた学生もいつしか姿を消し、気づけばテラス内の客も大多数が入れ替わっていた。通行口にいた長髪のホールスタッフを呼びつけた将門は、メニューも見ずにバナナクリームパフェを注文すると、電子タバコの電源を入れてマニキュアと同じ色の唇を静かに開いた。 「先立つものは情報です。とにかく、今までに起きた三つの事件に関する、詳細な情報を集めるところからですね」 「まあ妥当だろうが、情報集めるにしたってテレビや新聞じゃ限界あるだろ。どうするんだよ」 「情報屋に頼むのが一番でしょうね」 「何だそりゃ」 「心当たりがあります」 確かにこの占い師、商業柄なのか異様に顔が広かった。士業関係からかなりきな臭いアウトロー系まで、様々な方面とのコネクションを持っていた。 「当は警察関係者に訊ければ手っ取り早いんですけどね。そこまでは無理っぽいので、やはり情報屋ですか」 警察の

    2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/29
  • 1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    見晴らしの良いカフェテラスの傍らには、簡素な造りの天蓋に覆われた液晶ワイドテレビが一台設置されていた。小さいテレビ画面なら四つは入りそうな大型スクリーンだ。画面に映っている二人は民放のニュースキャスターで、視聴者に向け盛んに〈呪われた番組〉を報じているが、よほどその惹句が気に入ったのか、どの報道機関も同じ言葉を多用し、伝えるべき内容には大差がなかった。 斜め読みした朝刊を占い師に返すと、最上壱八は黄金色のスプーンで退屈そうにレモンティーをカラカラ掻き回した。 屋根のないテラスに十ほどのパラソルつき円テーブルが不規則に据えられ、これまた不規則な客層の人々がてんで勝手に席を占めている。スクリーンの映像に注意を向けているのは、間近にいた数人の男子学生だけだ。報道内容に関して彼らはああだこうだと突飛な解釈を持ち出しては、互いにその妥当性と奇抜さを競い合っていた。 〈呪われた番組〉。それがここ一週間

    1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/28
  • 3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    何かの物音で眼を醒まし、重い頭を再び机から持ち上げたのは、それから四時間ほど後のことだった。他の部屋で音がしたようだが、ともすると自分が無意識に動いた折の椅子の軋みを、浅い眠りの中で聞き取ったのだろうか。 「むう」 無理な姿勢での睡眠が首や肩に負担をかけ、年齢相応の痛みとなって彼の顔を歪ませた。曲げたまま凝り固まった両腕を、力任せに前方に押し伸ばす。肘の関節がコキッと小さく鳴った。 続いてディスプレイの陰に隠れていた置き時計を、見やすい位置に移動させた。時刻はあと数分で午後十一時になろうというところ。カーテンの隙間の向こうは、初めからそうであったかの如く、全き闇に塗り込められている。直線だけで構成されたディスプレイ前面部は、無言で文書作成画面を白々と表示するのみ。体手前に据えられた平たいキーボードが、ユーザーによる次の入力をひたすら待ち続けていた。 保存を済ませパソコン体の電源を落とし

    3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/27
  • 2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    次なる目的地は、二階の書斎兼寝室。床材剥き出しの木製階段を上る乱暴な足取りが、必要以上に周囲の壁を震わせた。 上り終えた正面の板扉を開け、書斎に入る。さほど広くはないが、三方の壁沿いに引き戸つきスチールの棚、机、寝台と調度が几帳面に並んでいるのでこざっぱりした印象を与え、部屋の主人の潔癖ぶりを余すところなく伝えている。 明かりを点け、パソコンと書類だけの机上に無糖の缶コーヒーを置くと、教授は浅く腰かけたオフィスチェアにぐったり凭れ込んだ。 〈ガダラ・マダラ〉レギュラー陣の相次ぐ変死。被害者二人は、いずれも特殊能力の持ち主であると吹聴していた。煽情的なマスコミは、異能力者狩りの名を冠して一般大衆の関心を惹こうと画策していた。マスコミの方法論は熟知しているつもりだったが、この事件に関してはバカバカしすぎて怒る気にもなれない。 ふん、異能力者狩りだと。笑わせおる。理屈弁士の塞の神もアイドル気取

    2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/26
  • 1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    その日の講義を終え、第一の職場であるキャンパスを後にした大学教授の肩書きを持つ男は、地下鉄を降り、下校中の高校生の団体を幾つも足早に抜き去り、買い物客で大いに賑わう商店街のぶつかり合う喚声を意識にも留めず、閑静な裏通りを自宅へと向かって歩いていた。 茜色に染まった綿雲が眼の奥をピリピリと刺激し、連なる建物が辺り構わず濃い影を落とし始める、そんな夕暮れ刻の優柔で曖昧な雰囲気を、年配の物理学教授はどうも好きになれなかった。 後ろ髪を逆立てる突風に乗って、あっという間に彼を追い越した学生らしき自転車軍団。愛用の籠付き自転車が二日前、両のタイヤをぼろぼろに破られ、サドルを抜かれたむごたらしい姿で駅前駐車場に横たわっていたのを発見した教授は、危なげに蛇行しつつ視界から遠ざかる彼らの後ろ姿にその忌まわしい出来事を重ね合わせ、夜郎自大な若造どもを無性に怒鳴り散らしたくなった。 明日にでも新しい自転車を買

    1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/25
  • 17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    またか。もう次の事件が起きたのか。 壱八は眼を凝らしてテレビに見入った。 前頭部の心許ないニュースキャスターが報道センターのデスクに腰かけ、しっかりした声で新たな事件のあらましを伝えている。 大学教授の十条は、怪奇現象や超常現象を批判する立場にあった人間だ。彼は〈ガダラ・マダラ〉の出演者ではあったが、異能者ではない。もし教授の死が他殺だとしたら、筧要を端緒とする一連の犯行は、異能者狩りとは違う目的で執行されたことになる。 気になる点はそれだけではなかった。現場の十条邸に切り替わったライブ映像に、既視感を抱いたのだ。壱八はこの近くを通ったことがある。配達の仕事中ではなく、私用で。それも一度や二度ではない、何度も。 表札すら掲げられていない無愛想な煉瓦塀と、の額ほどの庭がついた一戸建ての邸宅。塀の間に設けられた鉄の格子門は完全に閉め切られ、すぐ先に見える玄関扉も厳重に閉ざされている。鉄門の奥

    17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/24
  • 16 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    黒衣の怪僧がその〈神威〉を発揮する機会は、永久に失われた。 塞の神紀世変死のニュースは、その日の夕方あらゆる報道機関が全国に報じ、以後、連日のように彼の死に関する論議が紙面やテレビ画面を賑わすところとなった。死因は毒物による心臓発作。占い師の見立て通りだった。 筧要の惨殺に続き、今度は〈ガダラ・マダラ〉収録中の服毒死だ。番組出演者の相次ぐ死、こんな恰好のネタに飛びつかない報道メディアなど皆無だろう。 特番の収録回は、必然的にお蔵入りとなった。いかに内容のハチャメチャぶりを売りにする番組だろうと、出演者が毒に苦しんで息絶える瞬間を、しかもネットと地上波で同時放映するのは無理があった。 一方、将門の口座に振り込まれた三人分のバイト代は、将門が朱良に二人分手渡し、彼女が壱八のアパートに出向くという壱八にとっては大変不意な分配方法で、それでも無事各自の懐に収まった。 幸いなことに、朱良は業のモ

    16 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/23
  • 15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    不安のどよめきがスタジオを取り巻く。仰臥したきりの塞の神の許に慌てて詰め寄るスタッフたち。座席から離れぬよう観客に指示を出すサブディレクター。スタジオ後方の関係者らも騒動の規模を測りかねているらしく、突然の中断に訝しげな声を上げている。格子状のフレームに取りつけられた天井の照明器具が、出演者の聖域を侵犯するスタッフ連中の背中をあかあかと照らし出す。 壱八を苛んでいた陰湿な睡魔は、今やどこか遠い世界に飛び去っていた。眠気の度合いはそのまま興奮のそれに置き換わり、悪性の風邪の如き火照りが全身を気怠く包み込んでいた。 客席を立つ者は一人としていなかったが、随所で立ち上るざわざわした騒音は、いかに優秀な番組スタッフとて収拾のつけようがない。上階の調整室にいる彼らの上役はどうなのか。問題だらけのテレビ番組とはいえ、さすがに高みの見物とはいかないだろう。 舞台セットに視線を移す。塞の神の倒れた場所には

    15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/09/22