一台の後続車も対向車もない閑散とした夜の道路を、愛車レクサスはひた走る。 口に咥えた缶の中身を少量流し込み、インパネの諸々に眼をくれた。時間にしてほんの数秒。それから再び視界をフロントガラスに向ける。 左のヘッドライトが、黒服の人影を眼の前の路上に照らした。 「なっ」 全身が総毛立った。かわしきれる距離でもスピードでもない。激突は必至だ。 半ば本能でハンドルを切った。同時に急ブレーキ。 車体後部が大きく左に傾げ、反対に視界は右へ右へ流れていった。飲みかけの缶が口から離れ、助手席の足許に転げ落ちた。 タイヤの摩擦音が長く響いた。ブレーキの反動で運転席から飛び出しそうになったが、シートベルトががっちり肩口に喰い込み、フロントガラスを自慢のスキンヘッドで突き破ることもなかった。 車が完全に停止するまで、彼は覆い被さるようにハンドルにしがみつき、ただただ眼を固く瞑るしかなかった。ガクンと一際大きく