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  • 2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    一台の後続車も対向車もない閑散とした夜の道路を、愛車レクサスはひた走る。 口に咥えた缶の中身を少量流し込み、インパネの諸々に眼をくれた。時間にしてほんの数秒。それから再び視界をフロントガラスに向ける。 左のヘッドライトが、黒服の人影を眼の前の路上に照らした。 「なっ」 全身が総毛立った。かわしきれる距離でもスピードでもない。激突は必至だ。 半ば能でハンドルを切った。同時に急ブレーキ。 車体後部が大きく左に傾げ、反対に視界は右へ右へ流れていった。飲みかけの缶が口から離れ、助手席の足許に転げ落ちた。 タイヤの摩擦音が長く響いた。ブレーキの反動で運転席から飛び出しそうになったが、シートベルトががっちり肩口に喰い込み、フロントガラスを自慢のスキンヘッドで突き破ることもなかった。 車が完全に停止するまで、彼は覆い被さるようにハンドルにしがみつき、ただただ眼を固く瞑るしかなかった。ガクンと一際大きく

    2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/30
  • 1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    夜鳥プロダクション社屋での長い打ち合わせも夜が更けた頃には終了し、午後九時、〈ガダラ・マダラ〉プロデューサー兼チーフディレクターは、自身の運転する車で自宅マンションへ向かう最中にあった。番組の新主題歌をどうにか決まりの段階に漕ぎ着け、ハンドルを握るスキンヘッドの彼は上機嫌に鼻歌を奏でていた。 一時は制作サイド内部でも打ち切りの意見が出た〈ガダラ・マダラ〉だが、収録再開はもう時間の問題だった。先日他界した南枳実の遺志を継ぐなどという仰々しい考えは微塵もなかったが、番組続行は夜鳥プロの存続に関わる最重要課題である。とにかく打ち切りの封じ込めに全力を注ぎ、再開に向けての地盤固めに奔走した。番組内容の多少の変更は余儀なくされたが、番組タイトルはそのままに、八割方従来通りの放送を継続させる運びとなった。 追い越し車線から片時も進路を変更することなく、夜の幹線道路をソニックイリジウムカラーのレクサス

    1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/30
  • 33 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    闇溜まりにひっそりと蹲る、雑多な様式の住宅群。壱八とクロスバイクは、いつしか見憶えのない場所に入り込んでいた。 一体、どこで犯人に会ったのだろう。関係者との面会中だとすれば、将門の読み通り、あの四人の中に事件の犯人がいたことになる。 一度は完全に諦めていた犯人捜しが、こんな形で復活しようとは。 いや待て。静止の声が壱八にかかる。それはおかしい。読心結果と矛盾する。四人の心理に、犯人の証拠は見出せなかった。犯人の自覚がない四人に、あんな真似ができるか? 壱八の混乱をよそに、一度も足を止めることなく黒い影は逃げ続け、やがて群れを成す住宅のうち、明らかに廃ビルと判る薄暗い建物の入り口に駆け込んだ。 壱八はクロスバイクを降り、開いたままのガラス扉を素通りした。路上の追跡劇で、黒コートとの差は十数メートルまで縮まっていたが、建物内に至ってとうとう相手を見失った。仕事で乗り慣れてはいるものの、いつもと

    33 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/15
  • 32 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    店名も読めないスナックバーを出た後、互いの家路に就くまで、両者とも言葉は一切交わさなかった。別れ際に悪態の一つでも吐いてやろうと、壱八は店を出る前から機会を狙っていたが、結局それも果たせず終いだった。 無言のまま朱良と別れ、アパートのある方角へクロスバイクを漕ぎ進める。 薄紫色の空が、静かな私道の上空をどこまでも覆い尽くしていた。涼しいのか寒いのか判断に迷う、曖昧な冷え具合の向かい風が、速度を緩めた壱八の上体に吹きつけた。 そのまま部屋に戻っても良かったが、思案の末、少し寄り道をして近所の古屋へ向かうことにした。 結構な衝撃ではあったが、朱良の指摘通り大したケガでもない。その程度のダメージを額に受けただけで、己の異能は消えたのか。信じられない思い、信じたくない気持ち、実際に異能の数々が使えなくなった現状認識が一つ意識の内に混在し、思考は道順も目的もない迷走をひたすら続けていた。 習慣の一

    32 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/15
  • 31 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    一般に、タナトスとエロスは不可分に結びついていると言われる。共通点の多い臨死と性的エクスタシー。心理学者によって提唱された死の能と性的衝動の快感原則。男と女に性が分離し、子孫を殖やすことが可能となった代償として、ヒトは死の運命から逃れられなくなった。そんな教訓じみた話もどこかで見聞きした。 ならば、一つの体に二つの性を併せ持つ円筒将門は、死の超越者としての資格を身に秘めているのではないか。世界の二大原理である陰と陽の合一を体現した、太極の具現者、永遠の不死者たる資格を。 不死の人間に死の臭いがつきまとうのは一見すると矛盾のようだが、不死に最も近い存在はもう二度と死ぬことができない、つまり既に死んでいるものでもある可能性を考慮すれば、死を帯びた不死者という逆説も全くのナンセンスとは言えなくなる。 両性具有者である将門は、不死者であるが故に死の気配を濃密に漂わせ、それが朱良の、忌避の要因にも

    31 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/15
  • 30 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    店の扉が大きく開かれ、でっぷりと肥え太った一人の中年客が店内に姿を見せた。年季の入った床板を規則正しく軋ませながら、男はカウンター奥のバーテンダーに鷹揚に手を振ってみせ、重たい足取りで止まり木へ歩いていく。ギラギラと脂ぎったその相貌を眼にした朱良が、嫌悪を一点に収斂させた強烈な蔑視を注ぎ込む。脂の乗り過ぎた顔を見ると不幸になる強迫観念にでも囚われているのか、以後彼女は一度顰めた両の眉を、その男が店を出るまで決して元に戻そうとはしなかった。 「ったく、どいつもこいつも」 一度火口から噴き出した溶岩流は、容易には収まらない。脂性の客の登場で大いに気分を害した朱良は、ここぞとばかりに職場に対する不平不満をぶちまけ始めた。抹茶ミルク一杯でここまで管を巻く人間がいようとは。壱八は感心と呆れの相半ばする微妙な感想を抱きつつ、自身のコーヒーカップに手を伸ばしたつもりだった。 「ちょっとそれうちの」 「あ

    30 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/04/15
  • 29 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    翌日の夕刻。早めに配達業務を終え、クロスバイクで帰宅途中のこと。 ファミレスでの会見以来、とんと顔を合わせることのなかった朱良に信号待ちのタイミングでばったり出くわし、壱八は命運尽きたとばかりに面を伏せた。 「何顔逸らしてんのよ」 「よう」 「いつ見てもシケた面ね。こっち見んな」 見ても見なくてもどのみち叩かれる。壱八の気分は否応なく落ち込んでいった。こんなことなら、部屋に籠もって未視聴動画でも消化していれば良かった。朱良の大嫌いな倍速再生で。 異能力を得た今でも、いざ彼女を前にすると卑屈な思いに囚われるのが悲しかった。習慣は恐ろしい。 白のワンピースにベージュのボレロを羽織り、革サコッシュの長い革紐を手の甲にグルグル巻きにした朱良は、日頃の憤を晴らすが如き攻撃的な眼差しを向けて、 「ねえ、何してんのよ」 「見ての通り仕事帰りだよ。てかお前、うちに来るつもりじゃないだろうな」 慌てて釘

    29 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2023/04/15
  • 28 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    そんな様子を離れた場所から楽しげに眺める中堅芸人と、未だ時間ばかり気にしているスポーツ刈りの青年。 漫ろにふらつく脚を懸命に支え、壱八は室内のドタバタ模様を口を半開きにして眺めている隣の超野茉茶に眼を転じた。相手方も自分をじっと見つめる男の姿を視野に捉えたようで、怪訝な眼つき以上に疑念の籠った口振りで、 「何よあんた。人のことジロジロ見て」 「犯人は、君なんですか」 驚いて眼を瞠る超野茉茶に、壱八は重ねて、 「君が殺人犯なのか」 不気味なほど冷静な声と、尋常でない眼光が華奢な体を俄かに竦ませ、彼女は後退ることもできない。 「な、何よ、何言ってんの」 壱八の容姿を映す瞳のカラコンが、怯えの涙に濡れ光っていた。 「余計なことは言わなくていい。犯人は君か?」 心を抉り取るような低くて暗い声音に、彼女はブルッと肩を震わせ、 「違う、違う。あーし、犯人じゃないし」 強張った声を絞り出すと、糸の切れた

    28 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/25
  • 24 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「異能力と言っても、僕のは大したものじゃないんですよ。ESPカードの図柄を裏返したまま透視したり、消しゴムや乾電池を宙に浮かせたり、その程度です。スタッフの皆さんに頼まれて、カメラの念写実験をやってみたことはありますが」 「それ、わちきも観ました。ポラロイドカメラのやつですよね。写真全体に、光の渦みたいなものが重なって」 そういえば、念写の実験はまだ行っていなかった。そのうち使い捨てカメラでも買って試してみよう。スマホのカメラじゃ無理か。壱八はつらつらと考えた。 「十条教授に言わせると、ああいう光のぶれは故意に作り出すことも可能だそうで」 「でも、ゲストの鑑定家はずっと首を捻っていましたよね。レンズかネガそのものに細工しない限り、あんな光の像はできないって」 言いつつ一歩踏み出した将門の先が、カツンと軽い響きを立ててスプーンの断片を捉えた。結構な速さで足許に滑り込んできた卵形の頭部を、壱

    24 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 23 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    何の予兆もなく、それは訪れた。湿気った癇癪玉を思わせる、小さな破裂音。 「きゃっ!」 スプーンの先端が、急勾配の放物線を描いて前方に吹き飛んだ。 将門のバックレスのにぶつかり、哀れにも切断されたスプーンの首は、砂っぽい地面の上にずしりと転がった。 声も出ない壱八の傍らで、将門は小さく唸って空の指先にまじまじと見入った。 少女の念動力は、ともすると青年に匹敵する、いや、それを超越する威力なのではないか。指でもぎることなく、頭部を柄から切り離す手法は共通だが、スプーンのちぎれ方がまるで違った。空の手に握られたスプーンは、彼女の視線から身を剥がすかのように、頭部だけ手の内から飛び退いた。その際、バチンという鈍い破壊音すら発せられたのだ。 吹き飛び具合からして、スプーンの柄には相当な衝撃、圧力が加わったはずだが、将門が拾い上げたスプーンの切断面は、実に平坦で綺麗なものだった。その点は飛駆の事例と

    23 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 22 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    青年は些か渋い顔になり、それでも仕方ないといった具合に、 「あの程度の瞬間芸で信じてくれというのが、きっとおかしいんでしょうね。けど、自分に嘘を吐くのはもっと嫌ですから」 飛駆に向け、思念を送る。最初の読心時に感じた抵抗感もない。 「僕は、自分の力を信じています。呼び方は何でも構いません。異能力でも超知覚でも超能力でも」 額の反応は微弱だ。飛駆の内面に、虚偽の意識を見出すことはなかった。 「空ちゃん、あなたはどう?」壱八からのサインを眼に留めた将門は、直ちに質問相手を変えた。「わちきどもは、あなたが異能を使う場面を映像でしか眼にしたことがありません。あなたも物の異能力者なのかしら」 その問いに、ベンチの二人は引き合う磁石の両極の如く、反射的に身を寄せ合った。青年の顔が見る見る硬く強張った。少女を庇うように身構え、上目遣いに質問者を睨みつけた。自分への質問に応じたときとは比べものにならない

    22 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 21 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「はい」 細く掠れた声が、辛うじて耳に届いた。 飛駆の偽証に続き、もしや彼女も、という壱八の予想は敢えなく外れた。空の心理に否定を示す分裂は起こらなかった。彼女は事実を述べていた。 飛駆だけが、第一の事件のアリバイを偽っていたことになる。 かなり遅めの下校らしい、子供たちの群れ騒ぐ声がどこからか聞こえた。 「さて、次は十条教授についてですけど、その前にですね」 壱八の合図を受けた質問者は、電子タバコのボタンを数回押して懐に仕舞い込むと、少し声色を変えて、 「独自に入手した情報なのですが、霊能者塞の神紀世が毒殺された際、他の出演者の飲み物からも致死量のトリカブトが検出されたそうで。お二人ともご存知でしたか?」 驚いた様子もなく、同時に頷く二人。後で南さんから聞きました、と代表して飛駆が答えた。 「そうでしたか。君たちも事件に関する事柄をある程度聞き及んでいると。すると南プロデューサーも、警察

    21 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 20 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    合図を待つまでもなく、壱八は最初の質問のタイミングで、既に飛駆への読心を開始していた。 ……? 何だ、この壁みたいなのは。 額の傷痕に思念を集中させた瞬間、不可視の障壁に行く手を阻まれたような、奇妙な手応えを感じた気がした。が、その後はいかなる異常も感知することなく、青年の内面は露になっていた。 同じ異能者としての能が、壱八の侵入を反射的に防ごうとしたのか、はたまた相手が異能者だという先入観が、そうした錯覚を起こさせたのか。真相は判らないが、仮に飛駆が壱八の能力に気づいたのだとしても、読心さえ成功すればそんなことは些事に過ぎない。 「図書館の外にいたという証言に、嘘偽りはないんですね?」 「もちろんです。ただ」そこで飛駆は声を落として、「カウンターにいた司書の方は、僕たちが開館時刻まで館内にいたことを、はっきり証言できなかったそうで」 「どういう意味です?」 「僕と空は、出口付近の長椅子

    20 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 19 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    二人の若き異能力者を引き連れ、将門は今一人の従者と大賀邸を後にした。 聞き込みの場所は、占い師の独断で近場の児童公園に決まった。敢えて場所を変えたのは、母親の存在により突っ込んだ質問ができなくなるのを避けるためだ。せめて屋根のある空間にしてはどうかと提案した壱八だが、近場のファミレスにするなら全員分の事代を負担すべし、という将門の容赦ない条件に、遺憾だが取り下げざるをえなかった。 「いいじゃないですか、天気もいいし。ねえ飛駆君、空ちゃん」 「僕はどこでも大丈夫です」 「わたしも」 どうにも分が悪い。そうだな、と壱八も同調するしかなかった。 日の落ちた黄昏色の児童公園。中途半端な面積の敷地内に、遊ぶ人の姿はない。密集した羽虫の群れが、奇怪な連携で無人の砂場を横移動していた。 金網手前に据えられた赤ペンキのベンチに、肩を落として並び腰かける若い二人。それぞれが手にした缶コーヒーは、壱八が入口

    19 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/11
  • 17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    見はるかす秋の夕空は古の言葉通りに青々と高く、澄みきった空気を賑わす気の早いカラスの叫びが、程なく訪れる夕暮れの気配を街並に振り撒いている。秋の落日は、これもまた古の言葉だが実に忙しなかった。 「いい住まいじゃないか」 大賀飛駆が家族と暮らす一戸建ての洋式住宅を前に、壱八はそんな陳腐な感想を抱いた。 閑寂だが悄然とはしておらず、高級だが決して豪奢ではない。控え目な気品を持つ白亜の二階建て住宅。さほど暗くもない外の様子に反し、玄関脇には蒼白い玄関灯が灯されていた。来客に備えての配慮だろうか。番犬の一匹がいてもおかしくない広い芝庭に、しかしそれらしき小屋は見当たらなかった。 呼び鈴を押して家人が出るのを待っていると、少しして扉の向こうからばたばたと駆け寄るスリッパの音が聞こえた。間を置かず聞かれたドアの先に、質素な部屋着を纏った小柄な女性の姿があった。彼女が大賀飛駆の母親だろう。すっきりと涼し

    17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2023/03/04
  • 15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    円筒将門から新たな面会のスケジュールを聞かされたのは、壱八が配達業務を程々に切り上げ、十月初めの陽射しが優しく降り注ぐアパートの寝床に仰向いていたときのことだった。 霊能系配信者の筧要が無残な死体となってから、今日で三週間。プロデューサー南枳実の死からも一週間近く経過していた。犯人逮捕のニュースは未だ報じられない。 着信音を響かせるスマホに手を伸ばすと、当たり前のようにぴたりと掌に吸いついてきた。額の傷痕を掻きながら、緑色の応答ボタンを押す。 「将門か」 『予定空いてます? 今日これから。空いてなかったら空けてください』 聞き慣れた占い師の女声が、次なる面会相手を告げた。 大賀飛駆。壱八より年少だが、異能力のキャリアとしては先輩に当たる青年だ。 直接了承を得たわけではないが、実家にいた彼の母親にアポを取り、今日の夕方そちらへ向かうことで話をつけたらしい。同じ私立校の高等部と中等部にそれぞれ

    15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/12/03
  • 14 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    駅構内に入り、プラットホーム後方に二人並んで立つ。電車の所要時間表を眺めながら、将門は話題を戻した。 「さっき言った通り、さほど謎の多い事件ではないんですよ。なのに、警察の捜査は思うように進展していないんですよね」 「何でだろうな」 「有力な手がかりが少ないんでしょうね。目撃情報が足りないとか、人間関係の洗い出しが不完全とか。いくら天下の警察でも、確証がなければ逮捕状を請求できないでしょうし」 「令状主義ってやつか。疑わしきは罰せずだからな。でも、そのおかげでお前はまだ自由の身なんだから、そこは感謝すべきだろ」 「ほっといてくださる?」将門は一瞬だけ頬を膨らませた。「では、この事件に関する少ない謎の部分を挙げてみましょう。筧要は玄関ドアの鍵と、殺害死体の残酷さ。塞の神は毒殺のインパクトが大きい反面、謎というほどのものはないですね。南枳実プロデューサーは、亡骸が手にしていた定期券とフォーク。

    14 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/11/29
  • 13 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「何てことです。気が知れません。いきなりあんな質問ぶつけるなんて」 柔らかい蒸気を顔の前に吐き散らし、将門は白々と蔑んだ眼でそう繰り言を洩らした。 ヴァニラの甘く香しい駅前通りに今日も人は多く、街路樹の木陰も立ち話には不向きだったが、呆れ顔の占い師にお堅い口調で引き止められ、壱八は樹木の太い幹に凭れた将門の前で虚ろに立ち尽くしていた。 衝突は必至だった。異能の反動と思しき頭痛は幾分和らいだものの、将門の非難がましい口舌は相変わらず耳に痛かった。 「わちきにはわちきなりの考えがあって、しっかり順序立てて質問してるんですよ。わちきの計算を狂わすような勝手な真似は、控えてほしいものです」 先程から将門は、読心装置たる随行者の予期せぬ行動を諄々と咎めていたが、当の壱八はというと、その意見に何一つ納得することができずにいた。 将門が渕崎に向けた質問は、いずれも事件の外堀を埋めていく類いの、確実だが迂

    13 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/11/28
  • 12 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「あの番組の実権を握っていたのは、南さんとあなたの二人。それに加担していたのが、出演者の塞の神と筧。教授は別としても、番組の首謀者は既に三人殺されています。残されたのは、あなた独りだけですよ」 「何だよ、あんたも俺を疑ってるのか」 冷淡な占い師の声に、気色ばむ渕崎。 いよいよ、最後の質問がなされるのか。壱八は音を立てて唾を呑んだ。 「あなた、怯えてるんでしょう。次なる犯人の標的が、番組再興を目論む自分なのではないかと」 その問いに、壱八と渕崎はほぼ同時に眼を瞠った。 違う。そうじゃないだろう。将門は質問を間違えている。そんな質問は不要だし、的外れだ。 だが、渕崎の反応もまた壱八の予想を超えていた。だらしなく垂れた眦が、見えないテグスで引っ張られたように吊り上がった。 図星なのか? 「だから、わちきとの面会にも応じる気になったんでしょう。一刻も早く事件を解決してもらって、プロデューサーとして

    12 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/27
  • 11 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「南枳実さんに関してですけど」晴れやかな顔つきになって将門は言った。「生前、彼女に事件のことを伺った際、十条教授が殺害された日のアリバイについて、その時刻はあなたと一緒に会社にいたとおっしゃっていたんです」 渕崎が眼を見開いて眉を持ち上げ、今一度占い師を見返した。 「何だ、君、南Pに会ったことあるのか」 「彼女からわちきのこと聞いてません?」 「番組以外の話なんてしたことないな、あの人とは」 「そう。それは別にいいんですけど、事件当時のこと、あなたにも訊いておきたいんですよ。教授が殺されたとき、当に彼女と一緒にいたんですか?」 尋ねると同時に、将門は再度耳許にかかった髪を掻き上げた。 急激に合図のペースが早まったが、その点は壱八の望むところでもあった。よしきたとばかりに能力を解放し、相手心理の解読に努める。興奮と緊張のせいか、額の痛痒感も大して気にならなかった。 「ああ。警察連中にも訊か

    11 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
    karatte
    karatte 2022/11/26