「多才」という言葉がぴったりな人だ。将棋棋士の船江恒平六段(36)。詰将棋への造詣の深さは有名で、透明感のある文章で書かれた観戦記はまるで小説を読んでいるよう。イベントなどで場を盛り上げるトークも冴(さ)えわたる。そんな関西の人気棋士に一昨年、新たな経歴が加わった。合格率約10%という難関の公認会計士試験をクリア。現在、対局など棋士としての仕事をこなしながら、監査法人で公認会計士になるために必要な実務経験を積む多忙な日々を送る。 挑戦するからには「将棋をやめたいという気持ちはまったくなくて、純粋にもう一つやりたかった。その方が自分にとってプラスになると思ったし、なっている」と、やわらかな笑みを浮かべて語る。 棋士養成機関「奨励会」の最終関門である三段リーグで戦っていた22歳のとき、ずっと一緒に将棋をしてきた仲の良い奨励会員2人が26歳の年齢制限で退会し、衝撃を受けた。「棋士になれないかもし