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ブックマーク / magazine-k.jp (148)

  • 雨雲出版を立ち上げる

    「どうして出版したいんですか」 初対面の編集者から単刀直入に訊かれた。どうして? 一瞬、戸惑ってしまう。 作家ベッシー・ヘッド作品の日語訳を出版したい。熱い思いを胸に多くの出版社に持ちかけたが、そのように根的な問いを投げる編集者はいなかった。でも、不意を突いたその言葉は、わたしにもっとも大切なことを気づかせてくれた。自分は純粋に、敬愛する作家の圧倒的な素晴らしさに感動してほしかったのだということを。 南アフリカ/ボツワナの作家ベッシー・ヘッド ベッシー・ヘッドは南アフリカ出身の作家である。1937年、ピーターマリッツブルグの精神病院で生を受けた。母親は白人で父親は不明だ。生まれて間もなく白人夫婦に養子に出されるも、肌の色が濃いと突き返されてしまう。時代は人種隔離政策アパルトヘイト下の南アフリカ。カラード(*1)の夫に引き取られ、この夫を実の両親と信じて育つも、13歳でダーバン郊外の

    雨雲出版を立ち上げる
    egamiday2009
    egamiday2009 2023/11/13
    “出版は手段だ。ベッシー・ヘッド作品を日本の読者に届けたい。遠い国の出来事ではなく自分事として受け入れてもらいたい。”
  • 最善なアウトプットのための、適切な“調べる”を調べたい

    こんにちは、心は永遠の大学生、山田苑子です。 いま、大人の勉強と調べ物というテーマは、大ブームらしいです。『調べる技術国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』が好評で早くも六刷3万部とか(*1)。『独学大全』も出版後すぐ話題になっていました。 誰でもネットで簡単に検索できる時代となった結果、結局「調べる」が結構難しいことだ、ということが可視化されつつあるのがこの5年位じゃないかな。私自身、ちょっとだけ大学で非常勤講師をした時は、結局学生に調べる方法ばかり伝えていたような気がします。だからこそ「調べる」が今、ブームなんでしょう。 現実問題として、「調べ過ぎる」ほうが怒られる。 でもね、ちょっと待って欲しい。私、仕事として複数業界の専門誌ライターをしてもうすぐ10年目に突入する者なんですが、原稿を納品して「よく調べてくれた!」「そんなに調べ上げてくれて、すごいね!」などと言われたことは、ま

    最善なアウトプットのための、適切な“調べる”を調べたい
    egamiday2009
    egamiday2009 2023/04/24
    “自分の目的を達成できたところが、「調べる」の終わりなんでしょうか”
  • マガジン航の今後について

    新年あけましておめでとうございます。「マガジン航」編集発行人の仲俣暁生です。 記事の更新が昨年の5月以後止まっていたことで、多くの方にご心配をいただきました。いま思えば昨年5月は新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の「第4波」が訪れていた時期で、私自身、長期化するコロナ禍のなかで先行きが見通せず、かなり悲観的な気持ちになっていました。 その後、昨年夏の「第5波」がやってきたときは、正直もうダメだと思い詰める瞬間もありましたが、ワクチン接種の拡大によりここ数ヶ月、ようやく落ち着いてこのサイトの今後を考える時間を確保することができました。そこでこの場を借りて、現状報告と今後についての考え方をお伝えしようと思います。 サイトの更新は今後も継続します 「マガジン航」は、2009年に株式会社ボイジャーとともに立ち上げたメディアです。その後、ボイジャーからの支援(具体的にはサーバの提供と編集制

    マガジン航の今後について
  • 全国図書館大会U40プレミアセッション

    2009年10月29日。平日の木曜の夜という決して条件の良い時間ではない中、日全国12都市で図書館関係者が同時多発的に集う大イベントがあったことをご存知だろうか。イベントの名称は「全国図書館大会U40プレミアセッション」。集ったのは実に全国で330名。 一口に図書館関係者といっても図書館で働くライブラリアンだけが集ったのではない。書店や取次、出版社といった図書館が資料として収める書籍や雑誌の作り手もいれば、図書館システムや図書館用備品を収める図書館関連企業の社員もいる。図書館情報学を学ぶ学生・院生もいれば、素晴らしいことに図書館の利用者も参加者に含まれていた。開催都市は北から山形、仙台、新潟、水戸、東京、名古屋、三重、京都、大阪、岡山、福岡、沖縄の全国12都市。集ったのは、主に40歳以下の図書館関係者である。 ちなみに会場別にみると、参加者数は、山形(12名)、仙台(17名)、新潟(8名

  • 多和田葉子さんインタビュー〜ビルドゥングスロマンとしての〈ライター・イン・レジデンス〉

    近年、アートイベントが盛んだ。都会でも村落部でも、それこそ日中がアートで埋め尽くされてしまった感がある。それに伴い、イベントに招聘されたアーチストたちが現地で滞在しながら作品制作を行う「アーチスト・イン・レジデンスという制度の存在も、徐々に知れ渡ってきた。 このレジデンス制度だが、源流となったのは17世紀に始まったフランスの「ローマ賞」だと言われる。「ヴィラ・メディチ」と名を変えた同賞は、現在もつづいている(日からも詩人・翻訳家の関口涼子さんが2013年〜14年にかけて参加している)。 日のアーチスト・イン・レジデンスは「アートをつかったまちづくり」と呼応する形で広まってきた。そこで活躍するのは、いわゆるアートやパフォーマンスアートの作り手たちだ。 一方、欧州では参加アーチストのなかに小説家、詩人などいわゆる「物書き」とよばれる人たちの顔ぶれもある。日では文学とアートは棲み分けされ

    多和田葉子さんインタビュー〜ビルドゥングスロマンとしての〈ライター・イン・レジデンス〉
    egamiday2009
    egamiday2009 2021/02/27
    “職人が放浪しながら腕を磨いていくというビルドゥングスロマン的な伝統がある…いろいろな土地に行って人格ができていく。だからわざわざ動きながら働くのね”
  • 『文學界』編集部に贈る言葉

    担当していた「新人小説月評」の末尾が削除されるという事件を経て、2月8日、『文學界』編集長から「最低限必要な寄稿者と編集部との信頼関係が失われた」という理由で月評からの降板が命じられた。とりあえず、担当編集者と決して多くないだろう拙評読者に感謝したい。 私が執筆できたのは2月号と3月号の計2回。最初の話では一年間=12回分を依頼されていたため、いささか不意な退場となった。改めて確認するまでもなく、私は私の主張がいまなお正しいと思い、『文學界』編集部は明確に道義に反していると思う。とはいえ、人の愚かさには際限がなく、たんに様々なことを間違えるだけでなく、間違いを間違いと認知できない二重の間違いすら犯しがちなことを考えれば、あまりに自己を過信するのも危険なことだろう。 というわけで、以下、私に決定的な落ち度があったとしても通用可能なメッセージを『文學界』編集部に贈りたい。道は二つに分岐する。

    『文學界』編集部に贈る言葉
    egamiday2009
    egamiday2009 2021/02/12
    “言葉を奪って無かったことにして、問題が解決したかのように取り繕うその欺瞞が許せないからこそ削除の要求を呑まなかった”
  • 削除から考える文芸時評の倫理

    月評の文章が削除される 今年から文藝春秋の文芸誌『文學界』で「新人小説月評」を担当している。純文学世界に精通してない方に少しシステムを説明しておくと、『文學界』編集部がセレクトした新人、具体的には芥川賞をまだとっていない純文学作家の小説を、いいとか悪いとか、評していくという仕事だ。文芸時評自体は、前年に週刊紙『読書人』で一年間担当していたこともあって個人的には去年の勢いのままつづいている感もあるが、原稿料や編集者の姿勢といったこまごました違いがそこそこ興味深い。 さて、そんな月評だが、2月5日発売の『文學界』3月号の拙文の末尾「岸政彦『大阪の西は全部海』(新潮)に関しては、そういうのは川上未映子に任せておけばいいでしょ、と思った。」(p.307)が編集部によって削除されるという事件が発生した。 以下、誌と削除される前のゲラ状態の末尾部分を添付しておく(左:誌、右:最終ゲラ)。 検閲とは

    削除から考える文芸時評の倫理
    egamiday2009
    egamiday2009 2021/02/06
    “作家から「反応」があったからといって、なんだというのか。怒りたければ怒ればいいし…その過程のなかで新たに発見できるものもあるだろう””文句があるなら言論で戦いましょう…あなたがどう思ったか“
  • アイヒマンであってはならない

    今月のエディターズノートを書くのはとても気が重かった。題材は早くから決めていた。永江朗さんが『私は屋が好きでした――あふれるヘイト、つくって売るまでの舞台裏』(太郎次郎社エディタス)というを出したことを知り、すぐにこれを取り上げようと考え、すでに読了していた。 しかし読了後、うーむと考え込んでしまった。 このは、自身でも書店員の経験があり、専業ライターとなった後は長年にわたり全国の屋に足繁く通い続けている永江さん(私も書店の店頭で何度もお会いしたことがある)が、屋に対して「好きでした」と過去形で語らずにはいられない昨今の状況についての、渾身のルポルタージュである。 中心的な話題は「ヘイト」だ(もっとも、この言葉を使うにあたり永江さんはいくつか留保をつけている)。いわゆる「嫌韓・反中」、つまり近隣諸国に対する排外主義的な考えを明示的に、あるいは暗黙のうちに主張する出版物のことで

    アイヒマンであってはならない
    egamiday2009
    egamiday2009 2020/01/02
    これはマジ“働く者たちの自主的な思考や判断ではなく、「作業員」としての労働に委ねられた状況に陥っていること…「アイヒマンばかり」になってしまったこと”
  • インフラグラムから遠く離れて

    第17信(仲俣暁生から藤谷治へ) 藤谷治様 ここ数年すっかり当たり前になった酷暑も、どうやらお盆明けで一息つき、心身ともにようやくお返事を書ける状態になりました。体はともかく、気持ちのほうもぐったりしていたのは、8月のはじめに起きたあいちトリエンナーレをめぐる事件の動向を追うので精一杯だったからです。 8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の展示企画の一つである「表現の不自由展・その後」が、展示内容に対する「市民」からの激烈な抗議と、会場への放火などをほのめかす悪質な攻撃によって、わずか3日間で公開中止に追い込まれました。たとえ愉快犯にせよ、京都アニメーションに対する凄惨な放火事件の直後に、その痛々しい記憶を材料とする脅迫行為がなされたことには、ひどく暗澹たる気持ちになりました。 今回のあいちトリエンナーレに対して僕は、開幕前から少なからぬ関心を抱いていました。トリエ

    インフラグラムから遠く離れて
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/09/21
    「読書という営みはインターネットという新しいインフラストラクチャーによって、これまでよりいっそう「自由」になるのではないか、と僕は考えていました…僕はその考え方をかなり大きく修正しつつあります」
  • あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」攻撃に抗議する

    8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展の一つとして、メイン会場の愛知芸術文化センターで開催されていた「表現の不自由展・その後」の展示が3日いっぱいをもって中止された。 この企画展の趣旨は上記のページで以下のように説明されていた。 「表現の不自由展」は、日における「言論と表現の自由」が脅かされているのではないかという強い危機意識から、組織的検閲や忖度によって表現の機会を奪われてしまった作品を集め、2015年に開催された展覧会。「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地支配、憲法9条、政権批判など、近年公共の文化施設で「タブー」とされがちなテーマの作品が、当時いかにして「排除」されたのか、実際に展示不許可になった理由とともに展示した。今回は、「表現の不自由展」で扱った作品の「その後」に加え、2015年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、同様に不許可にな

    あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」攻撃に抗議する
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/08/06
    “美術館(今回のような国際美術展も含む)や図書館が担うべき公共性のひとつとして、かならずしも全員一致の結論を得られないテーマやアジェンダに対し、安全な環境のもとで公的な議論を喚起するということ”
  • 無名の新人が書いた地味な分野の本に、ありえないほど長いタイトルをつけて売ろうとした人文書出版社の話

    ある日、いつものようにツイッターを立ち上げてタイムラインをぼんやり眺めていたら、なんだかとてつもなく長いタイトルのについてのツイートが流れてきた。発信者はそのの版元の編集者で、題名は『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する』――カギカッコを含めて60文字もある。ただ長いだけではない。一つひとつの言葉に見覚えはあるが、そのつながりがよくわからない。いったい「舞姫」と「アフリカ人」がどうつながるんだろう? タイトルだけではまったく内容の想像がつかないので、書店にでかけたときに立ち読みをしてみた。思ったより、ちゃんとしてる――というのも変だが、そう感じた。なにしろ版元はあの柏書房である。私はアルベルト・マングェルの『読書歴史 あるいは読者の歴史』やアレッサンドロ・マルツォ・マーニョの『そのとき、が生まれた』

    無名の新人が書いた地味な分野の本に、ありえないほど長いタイトルをつけて売ろうとした人文書出版社の話
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/06/18
    “無料で大量に読めないと、そういう出会いはない気がする”
  • 民主主義を支える場としての図書館

    図書館」という言葉から最初に連想するものはなんですかと問われたなら、の貸出、新聞や雑誌の閲覧、調べもの、受験勉強……といったあたりを思い浮かべる人が多いのではないか。もしそこに「民主主義」という言葉が加わったら、はたして違和感はあるだろうか。 図書館を舞台にしたドキュメンタリー フレデリック・ワイズマン監督の映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を、先月の終わりに試写会で観た(5月18日より東京・岩波ホールほか全国で順次公開)。約3時間半にわたる超長尺のドキュメンタリー作品であるにもかかわらず、不思議なことにいつまでも観つづけていたい気持ちにさせられた。その理由はこの映画のテーマと深く関わっている。 『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』の主題は、図書館を題材にしていることから想像されがちな「」や「読書」ではない。あえてキーワードを挙げるとすれば、「コミュニティ」「文

    民主主義を支える場としての図書館
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/05/07
    “本(に象徴される知識や情報)を必要とし、そのことで自分の暮らしを変えていこうとする「人」の具体的な姿”
  • 献本の倫理

    元『ユリイカ』編集長の郡淳一郎氏が、4月22日、自身のTwitterにて「「御恵贈(投)頂き(賜り)ました」ツイートの胸糞わるさ」から始まる「はしたない」御礼ツイートを批判したことで、献という出版界の慣習に多くの関心が集まった。 郡氏によれば、この種の御礼ツイートには「わたしには、「皆の衆、俺(私)はコネがあるんだぞ、大事にされているんだぞ、偉いんだぞ」というメッセージ」しかない。つづけて、「商業出版されたは商品なのだから、それをタダでもらったと吹聴するのは、はしたないことだと、なぜわからないのか。黙ってを読むことが中抜きされていると感じる」と憤りを露わにする。 はじめに断っておけば、私は郡氏の献観、また書物観や編集観にまるで共感しない。詳しくが後述するが、私が著者として他者に献するさい、その人にもっとも期待しているのはのPRであり、賞讃でも批判でも話題になること、注目が集まる

    献本の倫理
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/04/26
    みんながみんな好きにすれば良い。
  • 本を残す、本を活かす、本を殺す

    このところ、「をどう残すか」ということをよく考える。個人の蔵書をどうするかといったレベルの話ではなく、物理的な書物だけの話でもない。とはようするに「残された記録」のことだとすれば、考えるべきはさまざまな著作や文物を後世に伝えるための仕組み全体だ(往復書簡で藤谷治さんが書いていたとおり、のなかには著者自身は後世に残すつもりなどなかったものも含まれる)。たまたま先月は、そうしたことを考えさせられる出来事が続いた。 「ジャパンサーチ」ベータ版の公開 まずは明るいニュースから行こう。国立国会図書館は2月末にベータ版(試験版)として「ジャパンサーチ(JAPAN SEARCH)」を公開した。これは国立国会図書館自身が所蔵する書籍や資料だけでなく、日国内のさまざまな文化資源にかかわる36(公開時点)のデータベースをウェブ上で横断検索できるようにしたいわゆるナショナル・デジタル・アーカイブで、所蔵

    本を残す、本を活かす、本を殺す
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/03/13
    “デジタル・テクノロジーを奉じる者は決して蛮族ではなく、知性も教養もある人たちだろう。しかしそのことは、ただちに本の未来が安泰であることを意味しな”
  • 所感:2010年代の日本の商業出版における著者と編集者の協働について、営業担当者と書店との協働について

    稿は2019年3月10日に東京堂書店にて開催されたイベント「哲学者と編集者で考える、〈売れる哲学書〉のつくり方」において配布された資料を、著者の了解を得て明らかな誤字等を修正して転載したものです。 「俺の一生をかけて、全精力全財産を費やして、自分の意思どおりに歴史を捻じ曲げようと努力する。又、そうできるだけの地位や権力を得ようとし、それを手に入れたとする。それでも歴史は思うままの枝ぶりになってくれるとは限らないんだ。百年、二百年、あるいは三百年後に、急に歴史は、俺とは全く関係なく(﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅)、正に俺の夢、理想、意思どおりの姿をとるかもしれない。正に百年前、二百年前、俺が夢みたとおりの形をとるかもしれない。俺の目が美しいと思うかぎりの美しさで、微笑んで、冷然と俺を見下ろし、俺の意思を嘲るかのように。それが歴史というものだ、と人は言うだろう」 「潮時だというだけの

    所感:2010年代の日本の商業出版における著者と編集者の協働について、営業担当者と書店との協働について
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/03/13
    “よくないのは「自分が思っていたのとは違うけど、出版社が言うならそうなのかな」など半信半疑のままになることです”
  • 第1回 ブックオフという「図書館」の登場

    二種類の「古屋」から考える 突然だけれど、「古屋」といわれたとき、あなたの頭にはどういった風景が思い浮かぶだろうか。 薄暗く狭い店内にぎっちりとが重ねられ、店の奥ではこわそうな店主のおやじがぶすっとした顔で座っている―― あるいはこうだろうか? 蛍光灯で明るく照らされた店内にはぴっしりとが並べられ、そこかしこにいる制服を着た店員がにっこりとした顔で呼び込みをしている―― 多くの人にはこの二つの光景のどちらかが思い浮かんでいるのではないだろうか。まったく異なるこの二つの古屋は、そっくりそのまま「ブックオフ以前」と「ブックオフ以後」の古屋に対応している。日を代表する古屋チェーンである「ブックオフ」。「新古書店」ともよばれる矛盾した呼び名があるその古屋は、それほどまでに日の古をめぐる風景を変え、そしてそれは古の風景だけではなく、そのものをめぐる風景をも変えたのだ。 どう

    第1回 ブックオフという「図書館」の登場
  • あらためて、「浮上せよ」と活字は言う

    先月末に小説家の橋治さんが亡くなられた。謹んでご冥福をお祈りいたします。 小説だけでなく評論やエッセイ、古典の翻案・現代語訳など多彩なを著した橋さんには、出版論であり書物論といってもよい著作がある。1993年に雑誌「中央公論」に連載され、翌年に中央公論社から単行として刊行された『浮上せよと活字は言う』である。 このの主題は明瞭だ。出版産業がどうなろうと、人間にとって活字による表現や思考が不要になるはずがない。「既存の活字」が現実を捉えられずにいるのなら、その現実が見えている者こそ、その事態を言葉によって把握し思考せよということが書かれている。 1993年といえば、前年に昭和末期から続いたバブル経済が崩壊し、現在にいたる長期にわたる経済的な停滞が始まったばかりの時期である。自民党が一時的に下野し、野党による連立政権が成立した時期でもあった。 この頃の出版市場は、まだ上り坂にあった。

    あらためて、「浮上せよ」と活字は言う
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/02/05
    「同じ一つの本を一斉に読む…出版というものが、“産業”として成り立っていたのは、この異常な条件が生きていたというだけ」
  • いま本をめぐる環境は、とてもよいのではないか

    あけましておめでとうございます。今年で「マガジン航」は創刊から10年を迎えることになります。 昨年は下北沢に誰でも来ていただける「編集室」をあらたに設けました。今年はこの場所を拠点に、ウェブメディア以外にもいろいろな活動をしてまいります。今後も「マガジン航」をどうぞよろしくお願いいたします。 *   *   * この年末年始は仕事を離れて自分の読みたいだけを読んで過ごした。10年前にこのサイトを立ち上げたときに漠然と思い描いていたような、電子化へと急激に舵を切るような「の未来」は、2019年の現在もまだ現実には訪れていない。けれどもいま私たちが享受している書物をめぐる環境は、読者という立場に身をおくかぎりは、きわめて快適といっていいだろう。 仕事納めのあと、買ってからしばらく積んであったの山を崩し、手始めに野崎歓『水の匂いがするようだ――井伏鱒二のほうへ』(集英社)にとりかかった。一

    いま本をめぐる環境は、とてもよいのではないか
    egamiday2009
    egamiday2009 2019/02/03
    「「出版不況」は無意味な言葉」
  • 出版業界は沈みゆく泥舟なのか

    まるで沈みゆく泥舟のようではないか、と思う。日の出版業界のことだ。 このコラムは毎月、基的に月初に公開することにしている。毎月更新される小田光雄氏の「出版状況クロニクル」や、ジュンク堂書店の福嶋聡氏の「屋とコンピュータ」といったコラムを意識しつつ書いているのだが、これまではできるだけポジティブな話題を見つけるようにしてきた。でも今月はどうしても筆が進まず、公開が週をまたいでしまった。いまだに何を書いてよいやら、という諦めのような境地にさえなっている。 「文字もの」電子書籍は未だに紙の4% そうした思いを抱いた理由の一つは、先月に相次いで公開された出版市場統計である。 まず、インプレス総合研究所から2017年の日電子書籍と電子雑誌の市場規模が発表された。同研究所の調査によると、昨年の電子書籍市場規模は前年比13.4%増の2241億円、電子雑誌市場規模は前年比4.3%増の315億円。

    出版業界は沈みゆく泥舟なのか
  • 本を中心とした施設が神保町の文化を受けつぐ ――UDS中川敬文さんインタビュー

    4月11日、東京・神保町の岩波ブックセンター(信山社)跡地に、「神保町ブックセンターwith Iwanami Books(以下、神保町ブックセンターと略記)」という商業施設がオープンした。開店前日に内覧会を兼ねた説明会があり、プレスリリースを見てからずっと楽しみにしていた神保町ブックセンターにようやく足を踏み入れることができた。 「を読む人」の大きなイラストや「BOOK CAFE WORK」という文字、そして夜間のライトアップを別にすれば、神保町ブックセンターの外観は旧岩波ブックセンターの雰囲気をかなり受け継いでいる。入口をはいってすぐに小さな平台があり、ここには新刊や話題のが並んでいる。この佇まいからも、旧岩波ブックセンターとの連続性を強く意識していることが伺える。

    本を中心とした施設が神保町の文化を受けつぐ ――UDS中川敬文さんインタビュー
    egamiday2009
    egamiday2009 2018/05/17
    “この町が再び活性化するためには、既存の大学や出版社だけでなく、新しいタイプの若い知性がこの町と深く切り結ぶ必要がある”