<小説やエッセー、音楽など日系ブラジル人による創作活動は日本でも発信力を持ちつつある。そもそも「デカセギ文学」とは? 『アステイオン』99号の特集「境界を往還する芸術家たち」より「文学の現在とその可能性」を一部抜粋> 「デカセギ文学」の先駆者たち 「デカセギ文学」あるいは「在日ブラジル系文学」と呼べるものは存在するのだろうか。この問いへの答えは容易ではないが、少なくとも本稿を執筆している2023年現在、「デカセギ文学」を自認する作者も、在日ブラジル人による文学に特化した研究もまだ見当たらない。 名の付くジャンルとしては確立していないものの、在日ブラジル人による文学的な試みは小説、アンソロジー、クロニクル、エッセー、写真集、新聞の投稿欄に掲載された読者の文章の単行本化など、多岐にわたる。 しかし、在日ブラジル人が執筆して出版物として流通している文学作品は数が限られている。最も知られる2冊の著