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ブックマーク / book.asahi.com (93)

  • 「人類は麺類」が生まれた軌跡 「転んでもただでは起きるな! 定本・安藤百福」|好書好日

    ランドマーク商品という言葉がある。これはヒットし、ロングセラーになるだけでなく、人々の生活様式や価値観を一変させるパワーをもつ商品を指す。 この日発のランドマーク商品の筆頭に挙げられるインストタントラーメンは、今や国民から世界・宇宙となった。その生みの親、安藤百福の伝記や語録などを収めた書は「転んでもただでは起きるな。そこらへんの土でもつかんで来い」という精神で駆け抜けた起業家の生涯とともに日近現代の歩みが二重写しとなってくる。 植民地だった台湾に生まれた百福は、二十二歳でメリヤス販売会社を起こし、戦時中は機械部品・幻灯機・バラック住宅などを扱う。戦後は塩・栄養剤を製造し、信用組合の理事長となって破産。その間には憲兵隊で拷問にあい、脱税容疑で巣鴨プリズンに約二年間収監される。 そして、安く、うまく、衛生的で保存性と簡便性がある商品として、一九五八年にチキンラーメンを発売。この年

    「人類は麺類」が生まれた軌跡 「転んでもただでは起きるな! 定本・安藤百福」|好書好日
  • 「反穀物の人類史」 「定住」は「農耕」に直結しなかった 朝日新聞書評から|好書好日

    ISBN: 9784622088653 発売⽇: 2019/12/21 サイズ: 20cm/232,42p 豊かな採集生活を謳歌した「野蛮人」は、いかにして古代国家に家畜化されたのか? 国家形成における穀物の役割とは? 農業国家による強制の手法とは? 考古学、人類学などの最新成… 反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー [著]ジェームズ・C・スコット 通常、人類の定住と穀物栽培の開始が、国家の誕生を促したと考えられている。「国家誕生のディープ・ヒストリー」を論じた書は、第一に、そのような定説を否定する。たとえば、最初に発見された作物栽培と定住コミュニティの遺跡はおよそ一万二〇〇〇年前のものであったが、メソポタミアのティグリス川とユーフラテス川の流域に見いだされた最古の国家の遺跡は、紀元前三三〇〇年ごろのものだ。つまり、作物栽培が始まってから、国家ができるまでに四〇〇〇年以上もかかっ

    「反穀物の人類史」 「定住」は「農耕」に直結しなかった 朝日新聞書評から|好書好日
  • 「超傑作選 ナンシー関 リターンズ」 消しゴム版画と傑作コラムで振り返る90年代|好書好日

    石田純一、いしだ壱成父子 遺伝する「ありきたり演技」 スターになるための条件に、「演技が上手い」というのが必ずしも必要なわけではない。スターのオーラの前には、演技なんてチンケなものはなんぼのものか、という事をまず言っておこう。 石田純一、いしだ壱成父子は、テレビ的に見れば最もちゃんと売れている二世代俳優といえる。同時期にそれぞれの主演連続ドラマがオンエアされていた(『長男の嫁2』『未成年』)というのは、前例が無いのではないか。別にあってもいいのだが。 で、石田純一の演技は下手だなあ、という話なのである。『長男の嫁』みたいなホームドラマはまだ目立たないのであるが、悲恋モノというか「泣」いたり「怒」ったりすると、途端に「石田純一にとって演技とは何か」みたいなものが全部バレるような気がするのだ。 演技が下手というのは、上手いというのがそれぞれであるように、いろんな下手さがあると思う。末端に神経が

    「超傑作選 ナンシー関 リターンズ」 消しゴム版画と傑作コラムで振り返る90年代|好書好日
  • 「キツネを飼いならす」書評 従順で外見もキュート でも……|好書好日

    「キツネを飼いならす」 [著]リー・アラン・ダガトキン、リュドミラ・トルート あの演歌ではないけれど、「何でこんなにかわいいのかよ」と聞きたくなるほどの強烈な魅力が、犬などのペット動物にはある。この問いに一つの答えを出した科学者たちが、冷戦時代の旧ソ連にいた。彼らはキツネを飼いならし、オオカミからイヌへの進化を再現した。書はその大がかりな実験の記録だ。 キツネは来、人になつかない。実験でも、初めは飼育員に牙をむいて飛びかかる個体が大半だった。ただ、中には従順で穏やかなやつもいる。選別して交配を繰り返すと、わずか数世代で変化が出てきた。 人の手をなめて甘えたり、おなかを見せたり、しっぽを振ったりと、明らかにイヌっぽい行動が増えてきたのだ。彼らはおとなになっても、子ギツネのように遊び好きだった。 血液を調べるとストレスホルモンが少なく、「幸せホルモン」とも言われるセロトニンが多かった。能

    「キツネを飼いならす」書評 従順で外見もキュート でも……|好書好日
  • 個人の意識外の「社会」発見 デュルケーム「自殺論」|好書好日

    大澤真幸が読む 自殺ほど個人的な理由でなされるものはない。個々の自殺の背景には、人によって異なるさまざまな私的な事情がある。自殺は社会現象には見えない。 だが、例えばプロテスタントが多い地域とカトリックが優勢な地域とを比べると、前者の方が自殺率が高い。教義の点では、どちらも自殺には否定的である。それなのに自殺率に差が出るのはどうしてなのか。この事実は、自殺もまた社会現象であることを示している。 このことに気づいたデュルケームは、あと三年で十九世紀が終わるという年に公刊された書で、自殺を規定する社会的要因を基準に自殺は三つのタイプに分けられると論じた。着眼した要因は、社会的連帯(つまり絆)の強さである。 第一に自己位的自殺。個人が共同体から切り離され、孤立したことに由来する自殺である。プロテスタントの自殺率が高いのは、このタイプの自殺が多いからだ。プロテスタントはカトリックより個人主義の

    個人の意識外の「社会」発見 デュルケーム「自殺論」|好書好日
  • 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」書評 西洋式でない国、嘘のような現実|好書好日

    謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア (集英社文庫) 著者:高野秀行 出版社:集英社 ジャンル:一般 【講談社ノンフィクション賞(第35回)】【梅棹忠夫・山と探検文学賞(第3回)】内戦が続き、無数の武装勢力が跋扈するソマリア。その中に、独自に武装解除した独立国ソマリランド… 謎の独立国家ソマリランド [著]高野秀行 人がこの地球上で生きるのに、国家というところに所属しなければならなくなってどれくらい経つだろう。それが最良のやり方なのか、時々わからなくなる。 ソマリアと聞けば、無政府の内戦状態にあって、外国人が立ち入ることなど到底出来ないところだと思っていた。それが旧英領ソマリランドの部分だけ「勝手に」独立して、ソマリランドと名乗り、自分たちだけで話し合って内戦も解決し、十数年も平和を保っているという。そんなことができるんだろうか。にわかに信じがたい。 著者

    高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」書評 西洋式でない国、嘘のような現実|好書好日
  • 「左派を再び偉大に」する処方箋 『ポスト新自由主義と「国家」の再生』日本語版への序文|じんぶん堂

    記事:白水社 左派が「ネオリベ」に抗するための基礎知識! ウィリアム・ミッチェル+トマス・ファシ著『ポスト新自由主義と「国家」の再生 左派が主権を取り戻すとき』(白水社刊)は、MMTの旗手による左派再興のための処方箋。 書籍情報はこちら 国民と、その代理人として幸福を増進する役割を果たすべき国家との関係は、ここ数十年で世界的に大きな変化を遂げた。この時期の特徴は、経済政策に関する政治的議論がほぼ完全に均質化したことである。経済問題に関して、保守(右派の)政治家の意見と伝統的な社会民主主義者の意見に違いを見出すことは、今や困難である。かつては、国家が資主義をどの程度制御するかという観点から定義される政治的な左右両派には明確な違いがあった。しかし、ここ数十年間で新自由主義イデオロギーが支配的になるにつれて、その違いは感じられなくなってしまった。 このような動きに伴ってさまざまな危機が出現した

    「左派を再び偉大に」する処方箋 『ポスト新自由主義と「国家」の再生』日本語版への序文|じんぶん堂
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2023/09/16
    図書館にはなし…
  • 「きしむ政治と科学」書評 耐えた専門家「主語」の粗さも|好書好日

    きしむ政治と科学 コロナ禍、尾身茂氏との対話 著者:尾身 茂 出版社:中央公論新社 ジャンル:社会・時事 「きしむ政治と科学」 [著]牧原出、坂上博 尾身茂氏は、コロナ禍の感染症対策分科会など政府の一連の会議で最も名が知られた専門家であろう。 著者らのインタビューに対し、言葉を選んではいるものの、まず伝わってくるのは、政府の無策に対する氏のもどかしい思いである。今回のような新興感染症による危機は、10年以上前から予想されていた。尾身氏ら専門家は検査・人員体制の強化などの報告書を政府に幾度も提言したが、訴えは十分に生かされず、コロナ禍は始まった。 尾身氏らは、準備がもとより不足であることを知りながら、使命感を支えに踏み込んだ発言を時に続ける。しかしそれが自分たちへの風当たりを強くし、氏には殺害予告も届く。 「我が国の危機管理体制は十分ではなかった」と2020年初夏の見解に記したら厚生労働省か

    「きしむ政治と科学」書評 耐えた専門家「主語」の粗さも|好書好日
  • 山本健人「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」 当たり前の機能に美が潜む|好書好日

    「ウンチして偉いね」「ゲップできたね」 かつては私もそんな言葉をかけてもらっていたのだろうが、今ではすっかり大人になってしまい、日常的な生理現象がきちんと出来たところで、誰も褒めてはくれない。こんなこと、できて当たり前だからだ。 しかし、その「当たり前」の背後には、驚くほど精巧で複雑な仕組みが存在している。椅子から立ち上がれること、走っていてもあまり視界はブレないこと、目をつぶっていても自分の手足の位置を把握できること、体温が36度前後に保たれていること。書は、普段は意識もしないようなささいなことや、健康ならば誰もができるような簡単な動作を取り上げながら、私たち自身の身体の素晴らしさを教えてくれる解説書である。 冒頭で挙げた排便を例にとると、べたものが便になるまでの間には、消化液を出す器官、栄養素を吸収しやすくする酵素を分泌する器官など、いくつもの臓器が関わっている。事故で臓器が傷つき

    山本健人「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」 当たり前の機能に美が潜む|好書好日
  • 『中国の「よい戦争」』 「道徳的に公正な国」という物語 朝日新聞書評から|好書好日

    中国の「よい戦争」 甦る抗日戦争の記憶と新たなナショナリズム 著者:ラナ・ミッター 出版社:みすず書房 ジャンル:社会思想・政治思想 『中国の「よい戦争」』 [著]ラナ・ミッター 戦争を肯定的になど捉えられるはずがない。しかし、アメリカでは第2次世界大戦がヨーロッパとアジアを解放した「よい戦争」として記憶され、中国の習近平国家主席は抗日戦争を、「日軍国主義が中国を植民し奴隷化しようとした企(たくら)み」を粉砕した「偉大な勝利」であり、「民族の恥辱を洗い流し、わが国の世界における大国の地位をあらためて確立した」と誇らしく宣伝する。 冷戦期、中国の公的な歴史は共産主義的、革命的、反帝国主義的なナラティブ(物語)が中心だったのに対して、経済的に成功した中国共産党政権は、中国を第2次世界大戦で「勝利を収めた強国」かつ「道徳的に公正な国」と位置付けようとしていると、著者のラナ・ミッターは指摘する。

    『中国の「よい戦争」』 「道徳的に公正な国」という物語 朝日新聞書評から|好書好日
    takahiro_kihara
    takahiro_kihara 2023/07/25
    ラナだけど「彼」なんだ。まぁ今の時代、性別にこだわるのもどうか、とは思うが。
  • 熊代亨さん「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」インタビュー しんどさの根、見つめる|好書好日

    HOME インタビュー 著者に会いたい 熊代亨さん「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」インタビュー しんどさの根、見つめる どこにでもある日常風景の写真が5枚、書には差し挟まれている。駅構内で通行人が進む方向を示す矢印の群れ、何かの見せしめのようにすし詰めで皆が一服している屋内喫煙所、「不審者見たら110番!」の看板、といった類いである。 それらの一体どこが問題なのか、と思う人は少なくないだろう。だからこそ書かれただとも言える。昭和の時代に生まれ育った著者は、当時の雑然とした街に比べ、今の日は「清潔で、健康で、安心できる街並みを実現させると同時に、そうした秩序にふさわしくない振る舞いや人物に眉をひそめ、厳しい視線を向けるようになった」と記している。 健康に神経質過ぎる不健康さ、大人が作った秩序からはみ出さない子供たち、多様性と言いながら「不揃(ふぞろ)いでコミュ

    熊代亨さん「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」インタビュー しんどさの根、見つめる|好書好日
  • 「ナチスのキッチン」書評 台所に介入する独裁者の恐怖|好書好日

    【河合隼雄学芸賞(第1回)】ナチスによる空前の支配体制下で、人間とをめぐる関係には何が生じたのか? 家事労働から材、エネルギーにいたるまで、台所という「戦場」の超克を… ナチスのキッチン―「べること」の環境史  [著]藤原辰史 「飽」時代の人間は、自分の眼(め)や鼻を信じない。賞味期限の数字を信用する。腐ってもいないのに捨てる。五官が衰えると、人は単純なものしか好まぬ。過激な言辞を喜ぶ。独裁者歓迎の素地は、着々とできあがりつつある。 ヒトラーを信奉するドイツのナチ婦人団は、は自分だけのものではない、と言った。身体は総統と国家のものだ。健康は義務で、健全な心身を養成する台所は、主婦の「戦場」であり、調理道具は「武器」に他ならない。主婦は台所の兵士である。国家が管理するのは当然、というのが独裁者の言い分であった。 残飯は豚のエサのため回収車に出すよう命じられた。後日、細かい分別リスト

    「ナチスのキッチン」書評 台所に介入する独裁者の恐怖|好書好日
  • 文學界新人賞・市川沙央さん 「なにか職業が欲しかった」ままならぬ体と応募生活20年の果てに 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#1|好書好日

    第128回文學界新人賞 受賞作品「ハンチバック」 親が遺したグループホームで裕福に暮らす重度障害者の井沢釈華。Webライター・Buddhaとして風俗体験記を書いては、その収益を恵まれない家庭へ寄付し、Twitterの裏垢では「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢」と吐きだす。ある日、ヘルパーの田中に裏垢を特定された釈華は、1億5500万円で彼との性交によって妊娠する契約を結ぶ――。 療養生活という名の引きこもり 取材は市川さんが両親と暮らす自宅で行われた。お母さんに案内された部屋で、市川さんと目が合った瞬間、その射貫くような眼差しに気圧された。市川さんは筋疾患先天性ミオパチーという難病により、人工呼吸器を使用しているため、発話に大変な体力を使い、リスクもある。そのため取材も、あらかじめメールで回答をもらい、補足のみ、最小限お話いただく形をとった。 目力の強さはそれが市川さ

    文學界新人賞・市川沙央さん 「なにか職業が欲しかった」ままならぬ体と応募生活20年の果てに 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#1|好書好日
  • 悪魔、巨人、仮面、魔法の馬、そしてなまはげ 『世界一おもしろいお祭りの本』|じんぶん堂

    赤ちゃんまたぎ祭り(スペイン)/ディアボリートの祭り(コスタリカ) 最初に紹介するのは、エル・コラチョというスペインのお祭りです(イラスト上左)。 これは通称「赤ちゃんまたぎ祭り」とも呼ばれ、フードと仮面をかぶったエル・コラチョという悪魔が、生後12カ月未満の赤ちゃんの上を飛び越え、原罪を清めるという奇妙なお祭りです。 エル・コラチョが去った後は、赤ちゃんはバラの花びらをまかれ、両親の元に戻されます。 このお祭りは1620年からありますが、実際はもっと古く、キリスト教伝来以前の子孫繁栄を願う異教の風習が起源のようです。 マキシ(ザンビア北部) ザンビアのルヴァレの人びとは約5年に1度、少年が大人になるための儀礼をおこないます。 この儀礼はムカンダと呼ばれ、少年たちは人の近づかない森のなかで1~3カ月間のキャンプ生活を送ります。 ムカンダが完了すると、マキシと呼ばれる仮面の踊り手たちが登場す

    悪魔、巨人、仮面、魔法の馬、そしてなまはげ 『世界一おもしろいお祭りの本』|じんぶん堂
  • 老後を考える手引きにも|好書好日

    脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日人たち 著者:水谷 竹秀 出版社:小学館 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション 恋人候補200人のナンパおじさん、19歳のとスラムで芋の葉をべて暮らす元大手企業サラリーマン、震災を機に東北から原発ゼロのフィリピンに父母と移住した夫婦。ゴミ屋敷暮ら… 脱出老人―フィリピン移住に最後の人生を賭ける日人たち [著]水谷竹秀 年金は実質的に下がる一方で、介護福祉も問題山積み、物価も安くない。そんな日を脱出したいと思ったことがある人は少なからずいるのでは。書はフィリピンに移住した人たちに取材したルポ。移住の理由は再婚、借金逃れ、温暖な地を求めて、と多様だ。介護問題も大きい。一人ひとりの実にさまざまな事情がつづられる。セブ島の高級コンドミニアムに住む老人と出会った著者は、フィリピンが現代の姥(うば)捨て山になっているのではと疑問を抱く。日

    老後を考える手引きにも|好書好日
  • 歴史文脈踏まえ反省も批判も 水野和夫・山口二郎「資本主義と民主主義の終焉」|好書好日

    戦後長らく先進国世界の規範となってきた民主主義と資主義。その欠点が世界中であらわになっている。書は、漠然と不安を抱く読者ニーズにまっこうからこたえる主題を掲げる。 それにしても類書はごまんとあるのに、すぐ増刷がかかったのには、おそらく別の理由もある。推測するに、著者2人の組み合わせの妙もありそうだ。 経済史を巨視的にとらえる経済学者の水野。リベラルな立場から現実政治に関与しつづける政治学者の山口。それぞれに多くのファンがついているが、共通することがある。民主党政権の政策ブレーンだったことだ。 民主党政権の挫折は、政権交代を願って同党を支持した多くの国民をひどく失望させた。その後遺症から、野党はいま長期低迷を余儀なくされている。 非自民政権で社会民主主義を実現するという挑戦に敗れた2人は、その反省もふまえ、書で平成の出来事を歴史の文脈のなかに改めて位置づけていく。 政治家たちのあけすけ

    歴史文脈踏まえ反省も批判も 水野和夫・山口二郎「資本主義と民主主義の終焉」|好書好日
  • なぜ人は「陰謀論」にハマり、なぜ問題となるのか? 最新研究から考える|じんぶん堂

    記事:作品社 トランプ大統領の選挙集会の会場周辺で掲げられていたQアノンの旗=米ペンシルベニア州ミドルタウン(朝日新聞社) 書籍情報はこちら 「陰謀論」は、何が問題? SNSなどを利用していれば、悪魔崇拝者による秘密結社が世界を裏で支配しているという主張や、新型コロナは存在しないとの主張を目にしたことは一度や二度はあるだろう。これらの主張はネット上の主張だけにとどまらず、実際にアメリカでは国会議事堂を占拠し、また日ではワクチン接種会場で接種の妨害を行う団体が現れるなど現実世界に影響を及ぼし、また過激化している。 これらは陰謀論と呼ばれ、最近ではネット上で頻繁に目にするようになった。 はたしてこれらの陰謀論をどのように受け止めればよいのか? そもそも陰謀論をすべて否定すべきものなのか? そして陰謀論を信じ、主張する人々とはどのような思考をもっているのだろうか? 今年春に刊行された、ジョゼフ

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  • 「共通語の世界史」書評 多様性の維持が統一性の酵母に|好書好日

    共通語の世界史 ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学 著者:クロード・アジェージュ 出版社:白水社 ジャンル:哲学・思想・宗教・心理 ヨーロッパに息づく少数言語から、アメリカで息まく連合言語まで! ことばが、多様な民族間で「シェアされてきた歴史」を語る。言語分布地図・言語名索引付き。【「TRC MARC… 共通語の世界史 ヨーロッパ諸言語をめぐる地政学 [著]クロード・アジェージュ 書の初版は1992年である。30年近く前の「ヨーロッパの諸言語の総覧」を、今さら読む価値があるのか、いぶかる向きもあろう。一般に、人生が苦難に満ちれば民族文化(言語、ナショナリズム)への執着は熱狂的なものになるが、「ナショナリズムをより無害なものにするためには、いかなる障害もなく、財、人間、思想が循環できるようなひとつのヨーロッパを実現しなければならない」という著者の主張には瞠目すべきものがある。混迷する世界におい

    「共通語の世界史」書評 多様性の維持が統一性の酵母に|好書好日
  • 「トクヴィルが見たアメリカ」書評 旅と思索の軌跡、リアルに追体験|好書好日

    トクヴィルが見たアメリカ 現代デモクラシーの誕生 著者:レオ・ダムロッシュ 出版社:白水社 ジャンル:社会・時事・政治・行政 1831年、アメリカを旅したトクヴィルは何を見たのか。トクヴィルが「アメリカ」を発見し理解する過程を克明に描き出し、その向こうに現代、さらには未来の「アメリカのデモクラシ… トクヴィルが見たアメリカ―現代デモクラシーの誕生 [著]レオ・ダムロッシュ 1831年春、仏貴族出身の判事修習生トクヴィルは友人ボモンと共に9カ月間の米国旅行に出発した。弱冠25歳。刑務所視察というのはあくまで口実。市民が大国を統治するという、人類初の試みから40年余りを経た米国の実情を探るのが真の目的だった。 そのときの観察記『アメリカのデモクラシー』は高評価を受け、1841年には仏知識人の殿堂アカデミー・フランセーズの会員に選ばれた。 米国でも自国の質を捉えた不朽の名著とされ、今でも保守・

    「トクヴィルが見たアメリカ」書評 旅と思索の軌跡、リアルに追体験|好書好日
  • スピノザの自然主義プログラムとは何か?(前編):必然主義と目的論批判|じんぶん堂

    記事:春秋社 Spinoza, Excommunicated by Samuel Hirszenberg, 1907 書籍情報はこちら 自然主義プログラム――自由意志も目的論もない世界の中で人間を理解する そもそも「スピノザの自然主義プログラム」とは何か。これはスピノザの言葉ではなく僕なりの命名だが、スピノザ思想の中に見いだされる、次の2点を柱とする構想である。 (1)自由意志概念の否定を伴う決定論または必然主義、およびその帰結としての唯現実論(アクチュアリズム) (2)目的論的自然観の徹底的な否定 この構想の背景として想定しているのは、17世紀科学革命による、近代的な力学的自然観の成立である。近代力学は、中世までの目的論的自然観を退け、「目的」とは無関係な法則に従って運動する微粒子の総体として自然を説明する。 このような自然観を踏まえた上でスピノザは、目的なき自然法則を乗り越えられるよう

    スピノザの自然主義プログラムとは何か?(前編):必然主義と目的論批判|じんぶん堂