「人類学」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。聞いたことはあるけれど何をやっているのかわからない、という人も多いのではないだろうか。『はじめての人類学』では、この学問が生まれて100年の歴史を一掴みにできる「人類学のツボ」を紹介している。 ※本記事は奥野克巳『はじめての人類学』から抜粋・編集したものです。 運命的な一日 人類学に多大な影響をおよぼし続けているティム・インゴルドは、人間とは有機体(生命を持っている個体。つまり生物)であり、それと同時に社会的な存在でもあるのだと考えました。助けになったのは、ジェームズ・ギブソンの生態心理学でした。インゴルドは特に1979年に出版された『生態学的視覚論』に影響を受けたといいます。 ギブソン以前の心理学では、人は頭の中で感覚的に世界を思い描くことによって、周囲の環境を知覚しているのだと考えられていました。人は光や音、皮膚に感じる