百数えたら出てもいいよ、と彼は言った。ふたりぶんの笑い声が浴室にこだました。彼女は笑いながら数を数え、じゅうぶんにあたたまってから浴槽の湯を抜いた。それから二年が経ち、彼らはその部屋を引き払って、ばらばらの住処に移った。 彼とはもう一緒に住んでいないのと彼女は言い、どうしてって訊くのも愚かしいなあと私は思った。それで、何かきっかけでもあったのと訊いた。口にしてからやっぱりこれも野暮だなと思った。彼女は首をかしげてほほえみ、ユリちゃんの話をしてもいい、と言った。 ユリちゃんは彼女の家の裏に住んでいた。庭の木立のいちばん奥の梅の木をぐるりと回るとユリちゃんの家の庭に出る。彼女は幼稚園に通っていて、ユリちゃんは小学校を出る前だった。 ユリちゃんは真っ黒い髪を肩口で切りそろえたきれいな顔だちの子どもで、黄色いインコを飼っていた。彼女とユリちゃんは庭のハコベを摘んでインコにあげ、オオバコで飲めないジ