四月某日 晴 美容院に行って、前髪を切る。 前髪をつくるのは、久しぶりである。 はなやいだ気持ちになって家のそばを歩いていたら、知人に会う。 「おっ、前髪が」 と言われ、ますます自慢な気持ちになる。 「その前髪、ムーミンに出てくるノンノンですね」 知人は続けた。 ノンノン? あの、世にも浮き上がっている前髪の、あのひと? がっくりきて、そそくさと家に帰り、ふとんにもぐりこむ。すぐにでも前髪をなくしたくなるが、後の祭である。 四月某日 晴 前髪のことが気にかかりつつ、新刊のインタビューを受ける。 後日、そのインタビューの載った誌面を見た友だちから、電話。 「なんか、顔がむくんでない? 病気? 心配だよ」 ぜんぜん病気ではないし、顔のむくみも、五十歳過ぎてからはいつものことである。 すると、知人の言った「ノンノンのよう」というのは、もしかして前髪が似合っていないことをさした