山内 本書は、17世紀、加賀藩の篤農家・土屋又三郎の残した記録を通じて、「水田による農業は持続可能な生産活動で、かつエコで環境に優しい循環型であった」という定説に再検討を促す意欲作です。又三郎が自らの経験や反省、提言を記した『耕稼春秋』などの農書を手掛かりに、全国的に進んだ新田開発の光と影を描き出しています。 まず、“光”は、加賀藩が近世を通じて開発した新田が、なんと約35万石に及ぶということです。これは萩の毛利や、備前の池田といった国持大名クラスの石高に匹敵するほどで、新田開発としては大成功です。これが百姓の自立を促し、人口の増加、ひいては藩の財政改善に寄与したことは間違いない。 片山 “影”は、新田開発は、生態系への負荷や公害に繋がる問題を孕んでいるという指摘ですね。 水田を拡大すると、耕作のために必要な家畜の数も増えます。すると、えさの草も余計に必要です。水田に肥料として使う草(草肥