本書は2004年に行なわれた講演の記録で、正味160ページの小冊子だが、長大で読みにくい著者の本を敬遠している人にとっては、彼の思想を超簡単にまとめた「寝ころんで読めるウォーラーステイン」として便利かもしれない。 著者の歴史理論は、16世紀以降、近代西欧から生まれた「近代世界システム」が経済・政治・文化などのあらゆる面で世界を飲み込むプロセスとして近代の世界史を描こうとする壮大なものだ。そのシステムの特徴は、他の世界を戦争で征服するのではなく、資本主義の中に包摂(incorporate)するメカニズムである。世界各地に固有の生産システムを市場に組み込むことによって、それと一体の「ヨーロッパ的普遍主義」を広めてゆくのだ。 この基本的な考え方は、市場による流通が生産を「包摂」するシステムとして資本主義をとらえた宇野弘蔵と同じだ。そして「ヨーロッパ的普遍主義」というのはサイードのオリエンタリ