私は「男性」だが、就活をしていたとき、一度だけパンプスを履いて街に出たことがある。というのも、私はトランスジェンダーで、戸籍上の性別が「女性」だからだ。 書類の性別にあわせた格好はどうしたらいいのか迷っていた。そのパンプスは割と大きめの百貨店で選んだ、その店では最も中性的でヒールの低い「パンプスもどき」だった。それでも婦人用靴のコーナーにいることが苦痛で、ゆっくり選ぶ心理的余裕がなかったためか、家に帰ってから眺めると、その靴はどんどん女性用の残念なデザインに見えてくる。あぁ……もはや、ため息しか出ない。 いざやってきた「Xデー」ならぬ最初の面接の日、意を決してその靴をはき、駅の改札にSuicaを当てようとして、思わず手がとまった。「え、おれ、こんな格好で電車に乗るの無理なんですけど……!」けっきょくスゴスゴと自宅へと引き返した。 二足目の「よりマシ」な靴を入手して、ようやく就活を再スタート