『比較文明学会会報』52号、2010年1月 比較文明学の素材はまことにさまざまだと思うが、私がこだわって来た「救済宗教」というものも切り口の1つになると思う。救済宗教とは、人間が悪や苦難を避けがたいものであることに思いを凝らしながら、それを克服する通常を越えた道があることを説く宗教だ。来世での、あるいは/また異次元的な領域からの完全な恵みの享受が信じられる。宗教であるから、聖なるものの次元との関わりを重視し、また世界全体の包括的把握を提示するものだが、救済宗教はそれが悪・苦難とその全面克服という主題を基軸として展開している。闇と光の強烈なコントラストの宗教と言えるだろう。 人類文明はある時期に諸地域で一様に精神的深みの次元を獲得したというのが、カール・ヤスパースの「軸の時代」の仮説で、今も支持者は少なくない。紀元前1千年紀に「軸の文明」が中東、ギリシア、インド、中国などでそろって開花したと