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ブックマーク / www.tachibana-akira.com (13)

  • 自己啓発の歴史(6) サイケデリック革命とインナートリップ – 橘玲 公式BLOG

    マズローの人間性心理学は、白人エリート層を中心に、60年代のアメリカ社会で熱狂的に受け入れられた。 人間性心理学の最大の利点は、そのわかりやすさだ。それはフロイト流の精神分析のような不愉快な話(「お母さんとセックスしたいんでしょ」)を抜きに、人生の意味と目標を簡明に教えてくれる。 マズローによればひとには満たされない欲求を充足しようとする性があり、その欲求は息をし、べ、眠り、セックスをするという基的なものから安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求へと階層化され、自己実現の欲求へと至る。これが「欲求の五段階説」で、ひとは生活上の欠乏から解き放たれてはじめて、自己実現という高度の欲求を充足できるとされた。人生の目的は、完全な人間に向けていまの自分を超えていくことだ。いうまでもなくこれは、哲学者ニーチェの「超人」をアメリカの大衆文化に合わせて翻案したものだ。 マズローのもうひとつの特徴は、

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  • 自己啓発の歴史(5) 洗脳と超越 – 橘玲 公式BLOG

    CIA捜査官エドワード・ハンターは、朝鮮戦争中国軍の捕虜となった兵士の一部に奇妙な現象が起きていることに気がついた。ごくふつうのアメリカ青年だった彼らは、いまや毛沢東を賛美し、母国を非難する共産主義者に転向していたからだ。ハンターは、中国の捕虜収容所で兵士の思想の人為的な改造が行なわれていると考え、これを〝Brainwashing〟と名づけた。中国語の「洗脳」の直訳である。 米軍の研究者たちは、中国軍の行なった洗脳の技術を解明しようとさまざまな実験を行ない、それを分離・移行・統合の3つのプロセスにまとめた。 分離とは、相手を日常生活から完全に隔離すること。捕虜収容所や軍隊の新兵訓練所、オウム真理教のサティアンなどがこれにあたる。捕虜は名前を奪われて番号やホーリーネームで呼ばれ、私物はすべて取り上げられ、現実世界との交流を絶たれ、逃げ出す術がないことを思い知らされる。 移行では、自意識や自

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  • 自己啓発の歴史(4) エスリンとニューエイジ – 橘玲 公式BLOG

    サンフランシスコからシリコンバレーを越え、太平洋沿いにハイウェイを南に下ると、風向明媚な観光地、モントレーへと至る。そこからさらに一時間ほどロサンゼルスに向けて車を走らせると、州立公園のなかの人里はなれた海岸に木造の角ばった建物がぽつんと建っている。この温泉リゾートは、かつてこのあたりに住んでいたネイティブアメリカンの部族にちなみ「エスリン」と名づけられた。 エスリンは1961年夏、マイケル・マーフィーとリチャード・プライスという、30歳になったばかりの2人の若者によって設立された。彼らの目的は、人生の意味と可能性についての新しい考え方を追求する宗教・哲学・心理学のための交流の場をつくることだった。W・T・アンダーソンの『エスリンとアメリカの覚醒』は、人間の可能性(ヒューマン・ポテンシャル)を開拓すべく苦闘した彼らの「冒険」の壮大な叙事詩だ。 エスリンはもともと、裕福な医師であったマーフィ

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  • 自己啓発の歴史(3) 「自己実現」という魔法の言葉 – 橘玲 公式BLOG

    アメリカの心理学者アブラハム・マズローは良識ある理想主義者でヒューマニストだ。ひとことでいうと、とてもいいひとだった。 あちこち回り道をして28歳で心理学の博士号を取得したとき、マズローは学問の現状にものすごく不満だった。 当時の心理学は、精神分析と行動主義が対立していた。 フロイトが始めた精神分析では、ひとは無意識のなかに性的欲望を抑圧していて、それが神経症のようなこころの病の原因になる。有名なエディプスコンプレックス説では、男性は誰でも幼児期に母親との性的関係を欲望し、それが父親に禁止されることで去勢の恐怖に怯え、自我の葛藤が生じるとされた。しかしマズローは良識ある大人なので、「ひとのこころは性の欲望に支配されている」というフロイト理論を額面どおり受け入れることはできなかった。 20世紀初頭にワトソンやスキナーなどアメリカの心理学者によって提唱された行動主義は、心理学を「科学」にするこ

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  • 自己啓発の歴史(2) サイケデリックの発見 – 橘玲 公式BLOG

    カナダのサスカチワン州でアルコール依存症患者の治療にあたっていたハンフリー・オズモンド博士は、LSDで人為的に譫妄症状をひき起こすという治療法を思いついた。酒に溺れた患者たちは、のっぴきならないところまで追い詰められてようやく生活を変える決心をする。だったらLSDで重度のアルコール中毒と同じ状況をつくり出し、断酒の決断をさせればいい――。 ところが驚いたことに、LSDでトリップしただけで依存症から回復する患者が何人も現われた。そこでオズモンド博士は、1000名ちかい重度のアルコール依存症患者に大量のLSDを投与する実験を行ない、50パーセントというきわめて高い治癒率を得た。博士は、この幻覚剤がこれまで知られているなかでもっとも効果の高い“こころの治療薬”であることを認めざるを得なかった。 LSDを投与すると感覚器官にいちじるしいねじれが生じ、色が聴こえたり、音が見えたりする。この非日常世界

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  • 自己啓発の歴史(1) CIAとLSD – 橘玲 公式BLOG

    予定外の仕事が入ってなんだかすごく忙しくなってしまい、ブログの更新ができないので、『残酷な世界』のために書いて、けっきょく使わなかった原稿をアップすることにします。 ********************************************************************* 1943年4月16日、スイス、バーゼルの製薬研究所で新薬の研究をしていたアルバート・ホフマン博士は奇妙な経験をした。麦角菌(小麦やライ麦に寄生する菌類の一種で、麦角アルカロイドと呼ばれる毒性を有する)の派生物から合成した薬物を偶然、指先からほんのすこし吸収してしまったのだ。 その体験を、博士は日記にこう書いた。 「目をとじて横になっていると、幻想的なイメージがつぎからつぎへとくるくる変わりながら浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。どのイメージも実にありありと立体感にあふれ、カレイドスコ

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  • 同和地区を掲載することは「絶対に」許されないのか? | 橘玲 公式サイト

    「ハシシタ 奴の性」について、『週刊朝日』に編集長の「おわび」が掲載された。今後は第三者機関が記事掲載の経緯を検証し、結果を公表するという。結論が出るまでにはかなり時間がかかるだろうが、今後の議論の参考に事実関係を整理しておきたい。 最初に、以下のことを断わっておく。 「ハシシタ 奴の性」は、出自や血脈(ルーツ)を暴くことで橋下市長を政治的に葬り去ることを目的としている。だからこれは、ノンフィクションというよりもプロパガンダ(政治的文書)だ。 記事のこうした性格を考えれば、橋下市長が、記者会見での回答拒否を含むあらゆる手段を行使して『週刊朝日』に謝罪と連載中止を求めるのは当然だ。一連の行為が正当かどうかは、今後、有権者が判断すればいいことだ。 著者である佐野眞一氏の、「両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べあげ」るという手法に反発したひとは多いだろう。私もこうした手法には

  • ティーパーティのひとたち – 橘玲 公式BLOG

    ティーパーティと呼ばれる中流白人層が、アメリカ政治で大きな存在感を持つようになっています。日のメディアでは、彼らのことを「リバタリアン」と呼ぶようですが、これについては異論があるので、ここで述べておきます。 リバタリアニズムLibertarianismは自由Libertyを至上のものとする政治思想で、世界じゅうのすべてのひとが、人種や国籍、性別、宗教のちがいなどにかかわらず、「自由に生きる権利」を平等に有していると考えます。 リバタリアンによれば、ひとはどこで生まれても、自分の才能や能力をもっとも活かせる場所で働くことができるべきです。「メキシコに生まれたからアメリカでは働けない」というのは、「黒人に生まれたから一流企業には就職できない」というのとまったく同じ差別だからです。 このようにリバタリアンは、人種差別や性差別に反対するのと同様に、「国籍差別」による移民規制に反対します。 とこ

    ティーパーティのひとたち – 橘玲 公式BLOG
  • イゴールの人生 – 橘玲 公式BLOG

    ツァールスコエ・セローはサンクトペテルブルグの南にある「皇族の村」で、ピョートル大帝が妃エカテリーナ1世のために建てた豪華な宮殿と美しい庭園で知られている。 第2次世界大戦でサンクトペテルブルグ(当時のレニングラード)を包囲したドイツ軍はこの宮殿に陣を構え、冬を迎えた。時に零下20度を下回る極寒に、ドイツ兵たちは庭園の樹々をすべて切り倒して薪にし、それがなくなると宮殿内の調度品をつぎつぎと火にくべた。貴金属や美術品は収奪され、戦争が終わる頃には絢爛たる宮殿はただの廃屋と化していた。 宮殿の復旧はソ連時代から進められていたが、サンクトペテルブルグ出身のプーチンが権力を握ると国家の威信をかけた一大事業となり、2003年、サンクトペテルブルグ建都300周年にその全貌が一般公開された。 宮殿には壁一面が琥珀細工で覆われた「琥珀の間」があり、その美しさは世界的にも知られていた。ドイツ軍は撤退の際に、

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    kousyou
    kousyou 2011/10/05
    おもしろい
  • いずれ君たちは思い知るだろう – 橘玲 公式BLOG

    東京電力の損害賠償をめぐる政府支援の枠組が決まった。私は日国の一介の納税者として、また東京電力の一利用者として、この決定にささやかな疑問を持っている。 政府の決定では、東京電力の賠償額に上限は設けないのものの、株式の上場を維持し、社債などの債権もすべて保護されることになった。それでどうやって莫大な賠償資金を捻出するかというと、東京電力の毎年の利益から国に返済するのだという。 ところで東京電力の商品は電力しかないのだから、「利益」というのは利用者が支払う電気料金のことだ。電力は地域独占なので、電気料金が値上げされれば利用者には抵抗する術がない。すでに多くのメディアで、「電力料金の大幅な値上げは不可避」と報じられている。 ここで、私の最初のささやかな疑問だ。 これは要するに、東京電力が利用者から原発事故の賠償資金を取り立てて、それを被害者に分配するということではないのか。 もちろん政府はこう

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  • 東京電力は日本政府を訴えるべき – 橘玲 公式BLOG

    福島第一原発事故にともなう東京電力の損害賠償について、理解しがたい主張が横行しているので、それについて私見を述べておきたい。 議論の前提として、東京電力は福島第一原発の安全管理に責任を負っているのだから、今回の事故が引き起こした風評被害を含むすべての損害に対して賠償義務があることは明らかだ。このような場合、資主義社会では、会社法などの法律や金融市場のルールによって、誰が損失を負担すべきかを明確に定めている。今回のケースでは、賠償の原資は次のような順番で調達することになる。 東京電力は、第一に、保有する株式や不動産など、売却可能な資産をすべて現金化すべきだ。社ビルや社宅など、キャッシュフローを産まない資産はすべて売却して賠償原資にすればいい(社ビルなどはリースバックすればいい)。 役員報酬や社員の年収カットにとどまらず、整理解雇を含めたリストラによって経費を削減する。東京電力は今年度の

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  • ぼくたちが望んだ無縁社会 – 橘玲 公式BLOG

    宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』を興味深く読んだので、忘れないうちに感想を書いておきたい。 宇野はこので、19世紀フランスの政治思想家アレクシ・ド・トクヴィル(『アメリカのデモクラシー』)を導き手とし、私たちにはあまり馴染みのない現代ヨーロッパの政治哲学者・社会学者の議論をひもときながら、だれもが「自分らしく」生きることを追及する「〈私〉時代」のデモクラシーの可能性を論じている(以下は私なりの解釈で、宇野のの正確な要約ではない)。 18世紀の産業革命によって経済(市場)は爆発的に拡大し、ひとびとは身分制(階層社会)の桎梏から解放され、人類史上はじめて「自由」と「平等」を理想として掲げることが可能になった。近代化とは、王制(神権政治)に対する社会改革=革命運動として始まった。 ところが第二次世界大戦後、社会がより豊かになると、ひとびとの関心は〈社会〉から〈私〉へと向かいはじめる。これ

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  • 市場の倫理と統治の倫理 – 橘玲 公式BLOG

    お金はなぜ汚いのか? ぼくたちはみんな、お金に対して能的な忌避感を抱いている(お金は汚い)。これは、お金が愛情や友情と対立すると思っているからだ。 友人の家に招かれて、プレゼントの代わりに現金を渡せばびっくりされるだろう。恋人とのデートで、セックスの後に3万円払えば売春になってしまう(というか、もっと大変なことになる)。3万円の指輪をあげれば、すごく喜ぶのに。 これは、プレゼントを選ぶ過程に愛情が込められている、とされているからだ。だからぼくはたちは、お中元やお歳暮を贈るときも、現金をわざわざ商品券に換えたりする。儀礼的な贈答に愛情なんか関係ないし、現金ならどの店でも使えるのに、わざわざ不便にしているのだ。 もちろん、ひとびとが現金を受け取ることを拒否しているわけではない。そればかりか、給料が減ったとか年金が破綻するとかで大騒ぎしている。お金は欲しいけど、お金を贈られたら怒り出す――いっ

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