リアルサウンド映画部にて連載中の社会学者・宮台真司による映画批評「宮台真司の月刊映画時評」。今回は特別編として、10月16日に最新作『スパイの妻』が公開となった黒沢清監督との対談を掲載する。以前から黒沢監督の手腕を高く評価してきた宮台が、『スパイの妻』を起点に、黒沢監督ならではのモチーフの反復、フィルムというモノに対するフェティシズム、本作が無意識下で伝えている現代社会への痛烈なメッセージに迫る。 “黒沢流”のモチーフの反復が意味するもの 宮台真司(以下、宮台):最初に少し個人的な話をすると、僕の母方の祖父は、フランス租界にあった上海自然科学研究所の教授だったので、母の家族は租界地で暮らしていたんです。今作『スパイの妻』の優作とその妻・聡子と同じように、お手伝いが5人いるという環境で、想像を絶する大豪邸に住んでいました。母によると、母の両親であるその教授と妻ーーつまり僕の祖父母ーーは「とに