「生活史」とは、ある個人の生い立ちや人生の語りを聞き取る、社会学の質的調査のひとつだ。そんな「生活史」という言葉がかつてより浸透し、身近に感じられるようになったのは、社会学者の岸政彦が、この10年以上の中で執筆や編集を手掛けてきた本たちによる影響が大きいように思う。岸はどのようにして生活史にまつわる本を作ることになったのだろう。 「生活史の語りをたくさん集めたモノグラフを作りたいというのが、子どもの頃からの夢でした。中学生の時にスタッズ・ターケルというアメリカの作家にハマったんです。彼は人々への聞き書きだけを集めた分厚い本を何冊も出していて、それがお手本になっているというか。社会学者になったのも、社会学そのものも好きだけれど、人に生活史を聞きやすいんじゃないかな、というのがあって。沖縄が自分の調査テーマになってからも、生活史をずっと聞いてきました」 岸の最初の単著である『同化と他者化: 戦