以下は、吉見俊哉「万博幻想」より。 大阪万博の華やかさと日常風景のへの浸透、会場での圧倒的な人の濁流、その華やいだ幻想に向けられる殺気立った熱気のなかで踏み潰されていった貧しき人生、そして失われる幼い命─。一九七〇年という戦後日本史の中の重要な転換点、そこに一瞬佇んだ、日本列島と日本人の表情を、この山田洋次の『家族』くらいに見事に切開してみせた作品を私は知らない。 そこでは、戦後日本にとって「高度成長」とは何であったのかが列島を縦断するロケを通じて凝視されている。一方には九州の炭坑町と北海道の開拓村をつなぐ人生の軌跡があり、他方には国土に再配置されたコンビナートと大阪万博の風景がある。大阪万博が寿いでみせた成長の夢は、膨大な数の大衆の欲望を呑み込みながら、幾多の貧しき人生を拒絶し、脆き命を押し潰し、山野をコンクリートで固められた都市に変えてきた。 本書では、工業化が進み、高度経済成長を続け