20歳前後の若者の遺体。着用していたTシャツには故郷の砂が詰まった小さな袋が結い付けられていました。 別の少年の遺体のジャケットの内側には、西アフリカ・マリ共和国の中学校の成績通知表が縫い付けられていました。 それらは、アフリカからヨーロッパを目指して古い漁船に乗り、遭難で命を落とし、1年以上放置されたあとに引き揚げられた移民たちの遺品です。 どこの誰かもわからないまま埋葬された遺体から移民たちの身元を特定して、100組もの遺族と引き合わせてきた法医学者への取材から、人間の尊厳について考えました。 (報道局 政経国際番組部 ディレクター 池田亜佑) 放置される「アイデンティティを欠いた遺体」 書店でふと手に取った本の帯の文章に、私はドキリとし、引き込まれました。 「アフリカや中東からの移民をいっぱいに乗せたボートが転覆し、多くの名もなき死者が埋葬されているというのに、世界の法医学コミュニテ