種の起源や進化、繁殖、生物多様性などについて研究を行う「進化生物学」。気の遠くなるような長大な時間の経過のなかで、今日の多様な生物世界にいたるまでのさまざまな変化を読み解く、興味深い学問です。 そうした「進化生物学」の醍醐味を描いた一連のエッセイ的な作品をご紹介していきましょう。 今回は、混迷する進化学において、古生物の研究から学問の道に入った著者の若き日を振り返ります。後年、師と仰ぐ生態学者・河田雅圭博士との出会いと確執を通して、自らの研究の道のとるべき方向に見出し、さらには人とのコミニケーションにとって大切なことに気づかされるのでした。 黒歴史 今は、高校で生物を選択すると、進化について一通り学ぶ。どの教科書にも、自然選択や遺伝的浮動など、基本的な仕組みの解説があり、私たち人間の様々な形質にも、自然選択が働いてきたことが説明されている。世界で最も優れた生物教科書とされ、国際生物学オリン
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2月15日、水中ドローンで採取した環境DNA(eDNA)を用いて、サンゴ礁の深場(准深海)に生息する造礁サンゴの属を特定したことを発表した。 同成果は、OIST マリンゲノミクスユニットの佐藤矩行教授、同・西辻光希博士、同・成底晴日氏、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の永濱晋一郎氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立協会が刊行する科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Royal Society Open Science」に掲載された。 中有光サンゴ生態系は、熱帯・亜熱帯の水深30~150mの日光が弱い環境にあるが、浅瀬のサンゴ生態系に比べ、より多くの固有種が生息しているという。日本の中有光サンゴ生態系には、世界でも有数のさまざまな「イシサンゴ」が生息しており、研究者にとっては特に重要な場所とされる。 しかし、上述したように生息深度が
腸内細菌などのバクテリアとは違って、ウイルスは独自に増殖することができず代謝もしないことから、長年にわたり生物か非生物か議論の的になっています。そんなウイルスよりもさらに小さく単純ながら、これまで発見されているものとは明らかに異なることから、新しく「オベリスク」との名称が与えられた存在の発見についての論文が発表され、科学界から大きな注目を集めています。 Viroid-like colonists of human microbiomes | bioRxiv https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.01.20.576352v1.full ‘It’s insane’: New viruslike entities found in human gut microbes | Science | AAAS https://www.science.o
植物などが行う「光合成」で、水の分子から酸素の分子が作り出されるときのプロセスの一部を特殊なX線を使って捉えることに成功したと岡山大学などの研究グループが発表しました。光合成の反応の詳しいメカニズムの解明につながり、クリーンなエネルギー源として注目が集まる「人工光合成」の研究への応用が期待されるとしています。 これは岡山大学の沈建仁教授らの研究グループが国際的な科学雑誌「ネイチャー」に発表しました。 光合成で水から酸素が作り出される反応が起きる際にはマンガンなどの原子が「ゆがんだイス」のような形に結合した物質が触媒となって水を取り込むことが知られていますが、今回、研究グループは特殊なX線を使ってこの触媒に水の分子が取り込まれる様子を1億分の2秒から1000分の5秒までという極めて短時間で観測しました。 その結果、光を当ててから100万分の1秒後に触媒の構造が変化し始め、徐々に水の分子を取り
by Princess Máxima Center, Hubrecht Institute/B Artegiani, D Hendriks, H Clevers 中絶された胎児の脳から採取された細胞を用いて、初めて脳オルガノイドを作成することに成功したとの論文が、2024年1月8日付の学術誌・Cellに掲載されました。iPS細胞ではなく脳細胞から直接本物の人間の脳に近い構造を持つ「ミニ脳」を作る技術により、脳腫瘍やがんの治療に関する研究がさらに進むと期待されています。 Human fetal brain self-organizes into long-term expanding organoids: Cell https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(23)01344-2 Novel tissue-derived brain organ
メタゾアの心身問題――動物の生活と心の誕生 作者:ピーター・ゴドフリー=スミスみすず書房Amazon ピーター・ゴドフリー=スミス『メタゾアの心身問題』塩﨑香織訳、2023年、みすず書房 『メタゾアの心身問題』を読んだ。前著『タコの心身問題』を楽しく読んだのでこちらも楽しみにしていた。年末年始に読んでいたらあっという間に読み終ってしまった。ちなみに「メタゾア」は耳慣れない言葉だと思うが、多細胞の動物がだいたい含まれるカテゴリーらしい。 タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 作者:ピーター・ゴドフリー=スミスみすず書房Amazon 『タコの心身問題』もそうなのだが、読んでいない人に内容を伝えるのがとても難しいタイプの本だ。どちらも基本的には心の哲学の本といって良いと思うのだが、心の哲学の本と聞いてイメージする内容とはかなり異なっている。何しろ『メタゾアの心身問題』には、「カイメン」「
ガンマ線に耐性のあるマンガン系抗酸化物質を含む細胞様の構造が原始地球に存在し、これが生命の進化を可能にしたことを示すモデルについて記述した論文が、Nature Communicationsに掲載される。今回の知見は、進化の過程において初期の細胞が放射線損傷に対してどのように防御していたかを明らかにしている。 最初に地球上に出現した細胞は、プロトセル(原始細胞)と呼ばれる。原始細胞は、放射線量が現在よりはるかに高いことが知られている初期地球の過酷な条件下で存在した可能性があると考えられていた。放射線の照射は活性酸素種の産生を誘導し、活性酸素種は生体分子を損傷するが、原始細胞が放射線による破壊に対してどのように防御していたのかは分かっていない。これまでの研究から、高線量のガンマ線に抵抗性を持つDeinococcus radioduransという細菌は、無機ポリリン酸塩(多数のリン酸残基の鎖)と
行為主体性の進化:生物はいかに「意思」を獲得したのか 作者:マイケル・トマセロ白揚社Amazonこの『行為主体性の進化』は、認知科学が専門のマイケル・トマセロによる、「行為主体性」について書かれた本だ。霊長類や他の哺乳類はアリやハチといった昆虫と比べると「知的」であるようにみえる。しかしその知的さをどのようにはかるべきだろうか。もちろん、これについては行動の複雑さなど無数の尺度が考えられるだろうが、本書ではその知的さの違いを「行動の制御」に見出していく一冊だ。 たとえば、アリやミツバチの行動は、それがどれほど複雑であっても個体がすべてをコントロールしているようにはみえない。彼らの行動を主に制御しているのは個体の判断ではなく生物学的機制(バイオロジー)である。一方の霊長類や他の哺乳類は、ある程度は自分のコントロールにおいて、情報に基づく決定を能動的に下しているようにみえる。これに関連して出て
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター 染色体分配研究チームの三品 達平 基礎科学特別研究員(研究当時、現 客員研究員)、京都大学 生態学研究センターの佐藤 拓哉 准教授、国立台湾大学の邱 名鍾 助教、大阪医科薬科大学 医学部の橋口 康之 講師(研究当時)、神戸大学 理学研究科の佐倉 緑 准教授、岡田 龍一 学術研究員、東京農業大学 農学部の佐々木 剛 教授、福井県立大学 海洋生物資源学部の武島 弘彦 客員研究員らの国際共同研究グループは、ハリガネムシのゲノムにカマキリ由来と考えられる大量の遺伝子を発見し、この大規模な遺伝子水平伝播[1]がハリガネムシによるカマキリの行動改変(宿主操作[2])の成立に関与している可能性を示しました。 本研究成果は、寄生生物が系統的に大きく異なる宿主の行動をなぜ操作できるのかという謎を分子レベルで解明することに貢献すると期待されます。 自然界では、寄生
「現在の火星に生命が存在するのか?」という疑問は、長年の探査を通して検証されていますが、現時点では火星の表面に生命の痕跡は発見されていません。ただし、探査機に搭載される分析機器には性能上の限界があり、痕跡を検出できていないだけという可能性は否定できません。 アバディーン大学のJyothi Basapathi Raghavendra氏などの研究チームは、わずかな量のDNAを分析する装置「MinION」を使用して、火星の土壌を模倣した物質でその性能を検証しました。その結果、MinIONの精度であれば最小で2ピコグラム(5000億分の1グラム)のDNAも検出できることが確認されました。この結果は、地球上で最も生命が少ない環境でもDNAを確実に検出できることを意味しており、将来的な火星サンプルリターンミッションで求められる土壌分析の精度を満たしていると考えられます。 ■「DNA」の検出は極めて難し
フクロオオカミ(別名:タスマニアタイガー)の標本を見るダニエラ・カルソフ氏(哺乳類担当)。ストックホルムにあるスウェーデンの自然史博物館で(2023年9月26日撮影)。(c)Jonathan NACKSTRAND / AFP 【9月27日 AFP】スウェーデンのストックホルム大学(Stockholm University)の研究者がこのほど、絶滅したフクロオオカミ(別名:タスマニアタイガー)の試料から初めてRNAの抽出に成功したと明らかにした。 研究を共同で率いたストックホルム大学のロべ・ダレン(Love Dalen)教授(進化ゲノム学)によると、絶滅種からのRNAの抽出および配列の解析はこれまで成功していなかった。 同教授は「絶滅種からのRNA抽出の成功は、将来的に絶滅種の復活を可能にさせるための小さな一歩となる」と語った。 研究チームは、スウェーデンの自然史博物館(Museum of
カンブリア紀やエディアカラ紀よりも遥かに前の時代です。 スペインのゲノム制御センター(CRG)で行われた研究により、ニューロンの起源となる細胞が約8億年前に生きていた単純な多細胞動物「平板動物」に存在していたことが示されました。 平板動物は脳も筋肉も消化器官も持たない「最も単純な動物」であり、形もドロドロとした不定形となっています。 しかし研究者たちが平板動物を構成する細胞を詳しく分析したところ、神経ペプチドを放出して他の細胞の運動を制御している、ニューロンに極めてよく似た細胞が存在することがわかりました。 研究者たちは平板動物で発見されたニューロンそっくりの細胞は、脊椎動物や昆虫、ヒトデやクラゲなどさまざまな種でみられるニューロンの起源であると述べています。 8億年前と言えばカンブリア爆発が起きたカンブリア紀(5億4200万年~4億8830万年前)や、アヴァロン爆発が起きたエディアカラ紀
名古屋市立大学(名市大)は8月29日、線虫を電気で刺激すると速い速度で走りだすこと、またこの現象が基本的な「感情」によって引き起こされている可能性を明らかにしたことを発表した。 同成果は、名市大大学院 理学研究科のティー リンフェイ研究員、同・木村幸太郎教授、米・ノースイースタン大学のヤング・ジャレッド教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国遺伝学会が刊行する遺伝学とゲノミクスに関する全般を扱う学術誌「Genetics」に掲載された。 脳の働きの中でも特に研究が進んでいないのが感情だという。なぜなら、実験対象となる動物に「喜び」や「悲しみ」が存在するようには見えないため研究が難しいからだ。 しかし2010年代に入り、「感情には持続性がある」、「感情には正負の値がある」といった特徴に注目することで、ザリガニや昆虫にも感情のような脳の働きがある可能性があるという報告がされるようになっ
アオテアロア(ニュージーランド)原産の飛ばないオウムで、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅の恐れが最も大きい「深刻な危機」に分類されているカカポ(フクロウオウム;Strigops habroptilus)に関して、個体群の全数に近い個体の全ゲノム塩基配列を報告する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。これらのデータは、カカポの今後の管理保全計画に有用な情報をもたらす一助となる。 カカポは、かつてアオテアロアの各地に広く分布していたが、人類が到来して捕食性の侵略的哺乳類が持ち込まれたことで個体群が大打撃を受け、1995年には生残個体がわずか51羽となった。これに対し、カカポ復活計画(Kākāpō Recovery Programme)は、テワイポウナム(南島)のニャイタフ族(Ngāi Tahu)と協力し、カカポの集中的な管理を開始した。捕食者
自然現象を相手にする生命科学は一見ChatGPTのような言語処理とは何の関係もなさそうな学問領域だ。しかし今,タンパク質の構造や機能を予測する様々なタイプの「タンパク質言語モデル」が登場している。このツールは研究者が望み通りのタンパク質を設計するための便利な道具にとどまらず,生命現象を俯瞰する新たな視点を提供しつつある。 タンパク質と言語──それはなんとも不思議な組み合わせに聞こえる。しかし高校で生物の授業を受けた人なら,タンパク質は20種類のアミノ酸が並んだ1本の鎖でできていると習ったはずだ。つまり,タンパク質はアミノ酸という20種類の単語を一列に並べた文章ということになる。ChatGPTが単語の並び方から文章の意味を読み取れるなら,アミノ酸の並びからタンパク質の構造や機能を予測することだってできるのではないか。タンパク質言語モデルの根底にあるのはそういうアイデアだ。 2019年には,ハ
遺伝子操作したヒト細胞で、遺伝子発現を電流によって活性化できることを報告する論文が、Nature Metabolismに掲載される。概念証明実験では、糖尿病のマウスモデルでこの系を用いることにより、遺伝子操作したヒト細胞からのインスリン生産を誘発できた。この知見は、生きた細胞をプログラムできるウエアラブルデバイスの開発に向けた一歩になるかもしれない。 ウエアラブル電子デバイスは、身体活動や血糖値といった健康パラメーターをモニターするのに使用されているが、現在は遺伝子の活性を直接変化させるのには使えない。遺伝子発現を制御できるデバイスがあれば、例えば、体内の特定のホルモンの生産を促すために特定の遺伝子を活性化したり抑制したりするような医療介入に役立つだろう。 今回Martin Fusseneggerらは、ヒト細胞の遺伝子発現を電流によって制御し得るかの原理証明実験を行った。バッテリーからの直
ヒトのマイクロバイオームについて言われていることには確固たる証拠に基づかない不正確なものが含まれると論じるPerspectiveが、Nature Microbiologyに掲載される。著者らは、ヒトマイクロバイオームに関し、虚構や誤解がそのままずっと残っていたり、あるいは新たに生じたりしていると強調し、そういった事実関係の誤りについて概説している。 ヒトの腸内微生物相、特にこの複雑な微生物群集と健康や病気との関連については、研究が激増し、人々の関心が非常に高まっている。このような強い関心が誇大な宣伝につながり、一部の誤解を定着させてしまっている。微生物相について繰り返し語られているうちに、裏付けとなる強力な証拠がなくても、また元々の情報の出どころが曖昧なままでも、語られたことは事実であると考えられるようになってしまう。 Alan WalkerとLesley Hoylesは、ヒトマイクロバイ
前回はタンパク質三次構造のさわりかたについて書いたのだが、時代は「相分離生物学」の時代に入っている。 thinkeroid.hateblo.jp 相分離生物学の冒険――分子の「あいだ」に生命は宿る 作者:白木賢太郎みすず書房Amazon相分離生物学 作者:白木 賢太郎東京化学同人Amazon相分離生物学の全貌(現代化学増刊46) (現代化学増刊 46) 東京化学同人Amazon 2年前にわたしはこう書いていた。 最近の分子生物学では「相分離」という概念が急速に注目されている。らしい。らしい、というのはわたしも同僚が話題にしていて初めて知ったからだ。相分離、生物学で問題になるのは特に「〈液-液〉相分離」ということになる……らしい。 あらゆる分子は、固体・液体・気体のどれかの状態をとっている。これが「相」だ。温度と圧力でどの相になるかが決まる。しかし相のはざまとなる条件では、複数の相がいっしょ
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