真実と偽りが二極化する危うさ オウム事件から激変した日本社会 森達也 映画監督、作家、明治大学特任教授 テレビ・ディレクター時代、オウム真理教の信者たちを被写体にしたドキュメンタリーの撮影を始めてすぐに、所属していた番組制作会社である共同テレビジョンの上層部から、オウムを絶対悪として強調する意識が足りないと注意された。その時点ではフジテレビで番組として放送されることが決まっていたけれど、局の上層部も同じ意見だと上司である制作部長からは説明された。もっと悪辣(あくらつ)さを強調しろ。オウムは日本社会に出現した絶対的な悪なのだ。 言われていることの意味がよくわからず(実は今もわからない)、曖昧な対応を続けていたら撮影中止を言い渡され、仕方なくデジタルキャメラを手に一人で休日に撮影を続けていたら、社命に背いたとの理由で解雇を言い渡された。 もっと悪辣さを強調しろとの指示の意味は今もわからないが、