――実際、それで何とかなっているんですか。 オリンピック関連のアルバイトとか、ワクチンの接種の電話受付とか、期間限定の仕事はあります。そうした短期の仕事で収入を得ながら、ネットカフェなどに泊まっているという方は少なくありません。ただ、それも本当に一時的なものなので、またいつ路上生活になってもおかしくないという状況です。 (ウーバーイーツなど)フードデリバリー関係の仕事をしている人もいますが、競争が激しくなってきているので、なかなか収入的には厳しいという話を聞きます。 短期の不安定な仕事をつないでいくという状況から脱して、安定した仕事を、長期で働けるような仕事を見つけるためにも、まずそのスタートラインとして住まいが必要なんです。 ネットカフェで暮らすより、低家賃の住宅を借りたほうが生活コストは安くすむのに、初期費用のハードルがあるということで、貧困から抜け出せないという状況に追いやられてしま
唯一といえる例外は生活保護で、住まいがない状態でも今いる場所で申請する「現在地保護の原則」が適用されます。ですが、自治体側が、窓口で申請を拒む水際作戦をおこなうケースがあるのです。 本来はこれ自体が違法行為で、あってはならないことです。ところが、昨年4月の第1回目の緊急事態宣言時に、東京23区で生活保護の申請件数がかなり増えたにもかかわらず、かなりの人が追い返されました。 生活困窮の相談に対して、きちんと生活保護につなげる自治体もある一方、とにかく追い返す、1人だとダメでも私たちのような支援者が同行すると応じるなど区によって対応にバラツキも見られ、若い人に対しては「親元に戻れば」と諭す職員もいました。 若年層の生活困窮者は、虐待があって親との関係が悪かったり、親自身も貧困で頼ることができなかったりすることも多いのに、そうした事情を考慮せずに追い返そうとするのです。 利用していない困窮者の3
稲葉 剛(いなば・つよし)/一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事。認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人。生活保護問題対策全国会議幹事。 1969年広島県生まれ。1994年より路上生活者を支援。2001年、自立生活サポートセンター・もやいを設立、2014年まで理事長。同年、つくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む(写真:横関一浩) 首都圏では敷金・礼金といった初期費用が高く、家賃保証の審査に通らず家を借りたくても借りられない若者がけっこういます。そこで初期費用がかからず、連帯保証人も不要なシェアハウスに暮らさざるをえない人も一定数はいるということです。 不動産仲介業者を通じて借りる通常の賃貸物件は借地借家法によりある程度は入居者の居住権が守られますが、シェアハウスの場合はインターネットで情報を提供して大
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イギリスは立法によって「被用者(employee)」を対象にしたものと、より広い概念の「労働者(worker)」を対象としたものに分かれているが、やはり最近の最高裁判決で、ウーバータクシーの運転手を「労働者」だと認定し、最低賃金の適用や有給休暇の付与などを認めた。 ――アメリカは州レベルでも活発な動きがあるそうですね。 激しいせめぎ合いが起きているのが、カリフォルニア州だ。同州の最高裁はプラットフォーム型ビジネスの個人請負が独立した事業主であることの証明を、雇い主側に課す判決を出した。 これに対してウーバーなどプラットフォーマー側が猛反発して、州の住民投票でウーバーなどのアプリによる運転手を独立事業主することを賛成多数で承認させた。 最低賃金や安全衛生の規制の対象となるケースも この点をめぐる争いは今でも議論や訴訟が続いているが、アメリカのほかの州でもさまざまな動きがある。労働者性が認めら
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若者と民主主義との「ディスコネクト」 若年層の民主政治軽視、保守化は世界的な傾向。民主主義の後退は防げないのか? 吉田徹 北海道大学教授 一昨年、世界の注目を集めた論文がある。2人の若い政治学者、ロベルト・ステファン・フォアとヤシャ・モンクが、世界価値観調査というよく知られた意識調査のデータをもとに、民主政治や民主的価値を若者が重視していないことを明かしたからだ(邦訳は『世界』2017年2月号に収録)。 例えば、アメリカやヨーロッパ諸国で「民主的に統治された国に生活することが重要」と答えたのは、1950年代生まれではそれぞれ6割弱いたが、1980年代生まれ(ミレニアル世代)をみると、アメリカでは約3割、ファシズムを経験したヨーロッパでも約4割と低い。また、統治の方法として民主主義が「悪い」もしくは「とても悪い」と答えた若年層は、アメリカでは24%、ヨーロッパでも13%にのぼった(2011年
「自分が正しい」にこだわりすぎない心の柔らかさを――『寛容力のコツ』の著者に聞く(第2回) 2017/7/21 柳本操=ライター 現場の人と話をする、というお話が出ましたが、やはり直接話をするほうが収穫は大きいのでしょうか。 下園さん 今、コミュニケーション能力の中でも「話を聞く技術」が明らかに低下していると感じます。ディスカッションすることよりも、文字やスタンプだけの簡単なやりとり、あるいは動画のやりとりでコミュニケーションする手軽さが受けている。でも、人間って、それだけでは不十分なのです。私も、メールのやりとりだけでカウンセリングすることは不可能ではないのですが、それをやらないのは、「目の前にいる人に向かって自分の考えを言葉にする」というプロセスの中で、人は自分の信じている価値観や本音を表すことができるのだと思っているからです。 相手の言葉に対してこちらが言葉を投げかけ、少しずつ気持ち
藤田 私が『貧困世代』で取り上げたのは、若者の貧困について、です。私が支援してきた若者のなかには、一日わずか260円の食費で生活しなければならないといった女性や、所持金を13円しか持ち合わせていない男性がいました。 貧困は、若者にも迫り、高齢者にも迫り、さらには非正規雇用の割合が多いといわれる団塊ジュニア世代にも迫っている――。改めて、日本が「一億総中流社会」ではなくなったことに気づかされます。 この状況改善に一刻も早く取り組まなければならないのですが、大変悩ましいことが二つあります。一つ目は、明らかに生活は苦しいにもかかわらず、「自分はまだ中流だ」という意識を持っている人が多く、SOSの声を自ら上げようとはしないことです。 たとえば私が会ったある高齢者は、光熱費が払えなくて、本当は毎日お風呂に入りたいんだけれども、月に1、2回しか入れないという状況にありました。これは、明らかに支援が必要
東京都福生市にある中華料理店「豊楽園」。JR福生駅から歩いてすぐのところにあるこの店が月に1回、農業を志す若者たちの熱気で沸騰する。 「農地を借りることが決まりました」「独立して会社をつくります」「農業を通して、日本の文化を守ります」「有機農業やってます」。ジョッキを片手に次々に近況を報告する。 集まりの名前は、「東京NEO-FARMERS!」。東京で新しく農業を始めた人や就農の準備をしている人、彼らを応援する人たちの集まりだ。すでに約20人が実際に就農した。 月に1回の会合は、お互いに情報交換したり、意欲を高め合ったりするのが目的だ。有志でマルシェに出店したり、地元のスーパーに常設のコーナーを設けたりと実績もつんできた。 仕掛け人は、東京都農業会議の松沢龍人さん。「おれも変わってるけど、こいつらも変わってる。変わりもん同士でいいじゃないか」。なぜ東京で就農を目指す若者が増えたのか。都市近
仁藤:困窮状態にある10代の女の子を中心に支援活動をしています。中身としては大きく分けて4つあって、1つ目が夜間巡回と相談事業。夜の街を歩いて、ひとりでいる女の子とか、帰れずにいる少女たちと出会うような活動と、全国から寄せられる相談に対応します。 手法は様々で、直接会うこともあれば、LINEや電話を通してということもあります。やっぱり本人たちになじみのあるツールからの連絡は多いですね。去年1年間で90数人から相談があって、そのうちの3割ぐらいが地方の子でした。北は北海道から南は九州まで。週末に講演で全国を回っていますが、その機会を使ってその土地で相談者に会うようにしています。 一緒に食事することが支援に 仁藤:活動の2つ目が、食料面での支援です。これにはとても力を入れていて、一緒にご飯を作って食べたりするような場所や時間を持つんです。本当に貧困状態の子は、今日食べる物がないとか、誰かと食卓
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